研究の背景
近 年 、 ベ ト ナ ム と 日 本 と の 友 好 関 係 は ま す ま す 深 ま る 。 日 越 の 協 力 は 経
済 、 教 育 、 文 化 な ど の 様 々 な 分 野 に お い て 深 く 行 わ れ て い る 。 日 本 語 学 習
の 需 要 が 益 々 増 加 し て い る に つ れ 、 日 本 語 を 一 つ の 言 語 と し て 研 究 す る こ とも大切になってきた。
日 本 語 を は じ め 、 外 国 語 の 学 習 の 時 、 言 葉 を 円 滑 で 適 切 に 活 用 す る た め
に 、 豊 富 な 語 彙 を 身 に つ け る こ と が 必 要 で あ る 。 日 本 語 の 接 辞 は 既 習 の 語
彙 を 拡 大 さ せ る た め の 重 要 な 役 割 を 果 た す 語 彙 の 部 分 だ と 言 わ れ て い る 。
し か し 、 日 本 語 学 習 者 の 外 国 人 に と っ て 、 日 本 語 に お い て 難 し く て 理 解 に
く い も の の 中 で は 「 接 辞 」 は 一 つ だ と 言 え る だ ろ う 。 そ れ は 一 つ の 語 基 に
異 な っ た 接 辞 を 付 け る と 、 ま っ た く 異 な っ た 意 味 を 持 っ て い る 言 葉 に な る
か ら だ 。 一 方 、 一 つ の 語 基 に 様 々 な 接 辞 を 付 け て も 、 意 味 が 非 常 に 近 い 言
葉 に な っ た も の も あ る 。 そ の た め に 、 日 本 語 学 習 者 は 日 本 語 の 語 彙 、 特 に
接 辞 が 付 い て い る 語彙 を 学 習 す る 時 、 間違 い こ と が 多 い と いう 状 況 が あ る 。
そ れ に 、 接 辞 が 付 い て い る 言 葉 の 意 味 が 理 解 で き て も 、 な か な か 適 切 に 使
用 で き な い 。 そ の 言葉 を 正 し く て 自 然 に会 話 や 文 章 な ど に 使用 が で き て も 、
ど う し て そ の よ う に 使 え る か 理 解 で き な い 学 習 者 が 少 な く な い 。 そ の た め
研究の目的
漢語系接頭辞についての先行研究
山下喜代 ( 2001 )は 、 「現 代日 本 語 に お け る 漢 語 接 辞 の概観 」 に 日 本 語
に お け る 漢 語 接 辞 の 研 究史を概観 し た 先 行 文 献 は 見当た ら な い と 述 べ た 。
こ の 研 究 に よ る と 、 「 漢 語 接 辞 」 と は 一般的 に 漢字で 表記さ れ る字音接 辞
の こ と で 、二 字漢字語 に 前 接又は後接 し て三 字漢 語 を 構 成 す る 形態 素を 指
す 。 「新 体操・ 前校長 ・ 近代化 ・ 合 理 的 」 に お け る傍 線部 で あ り 、 「新・
前 」 な ど が 接 頭 辞 、 「 化 ・ 的 」 な ど が 接尾辞 で あ る 。 ま た こ れ ら は 、 漢 語 のみならず和語、外来語、混種語にも接続して合成語を形成する。
盛 岡( 1994 )は 、 形態論 は 語 の 構造を記述 す る 部門で あ る と し 、統語 論
の 基礎部門と位 置付 け 、 形態 素に つ い て 論 じ た 。複合 語 の 構 成 要素で あ る
形態 素を 「 語 基 ・派生 辞 ・屈 折接 」 の三 種に 分 類 す る 。 い わゆる 、 接 辞 は
派生 辞 に含ま れ る の で あ る が 、 漢 語 系 は 「御」 を唯一 の 接 辞 と し て い る 。
ま た 、熱語 構 成 要素で あ り な が ら 、 そ の 意 味 ・ 用 法 が 接 辞 に 類 す る も の を
「準接 辞 」 と呼 んで 、 純粋の 接 辞 か ら区 別し て い る 。 「亜 熱 帯・ 過 保護」
「 運転 手・ 近代的 ・建 築 材」 な ど 、二 字熱語 が 基 に な っ て 、 語 頭 ま た は 語
尾に 漢字形態 素を添え る も の で 、 こ の よ う な位 置に あ る 形態を準接 頭 辞 あ るいは準接尾辞と呼んでいる。
野村 ( 1978 )に お け る 成 果 は ま ず 、第一 に新聞に お い て 、 ど の よ う な 漢
語 接 辞 の 使 用 度数が高い の か を 示 し た こ と が挙げ ら れ る 。第 二は 、 漢 語 の
接 頭 辞 に つ い て は 、 そ の品詞 性 や 意 味 に よ っ て 以 下 の よ う に 分 類 し 、具 体 例を示したことである。
1 連体型 脳細胞・県議会
2 連体修飾型 大都市・高気圧
3 連用修飾型 再検討・最年少
4 連体詞型 前会長・全日本
5 用言型 過保護・反政府
6 否定辞型 無意義・未発表
7 数量検定 第〇日・満〇歳
8 敬意添加型 御婚礼・令夫人
ま た 、田 村 ( 2014 )は 「和語 系 接 頭 辞 と 漢 語 系 接 頭 辞 」 に つ い て の 研 究 で は和語 系和語 系 接 頭 辞 と 漢 語 系 接 頭 辞 を 考 察 対 象 と し 、名詞 、 形 容 詞 、 形 容動詞 、 副 詞 に 付 くも の 、 及 び複 数の品詞 に ま た が っ て 付 くも の に つ い て 、 その意味・用法を記述的に分析した。田村(2014)の漢語系接頭辞の分類に よると、漢語系接頭辞は 43 個があり、漢字で書かれ、音読みで読まれる接 頭辞である。
上 述 の よ う に 、 日 本 語 に お け る 接 辞 に 関 す る 研 究 に お い て 、 接尾辞 よ り
接 頭 辞 に つ い て の 研 究 は 少 な か っ た 。 な お 、 日 本 語 に お け る 漢 語 系 接 頭 辞
に つ い て の 研 究 は も っ と 少 な か っ た 。 特 に 、 ベ ト ナ ム 人 日 本 語 学 習 者 の 日
本 語 に お け る 漢 語 系 接 頭 辞 の 使 用 状 況 に つ い て の 研 究 は 一 つ も な い と 言 え
る だ ろ う 。 そ こ で 、 本 研 究 で は ベ ト ナ ム 人 日 本 語 学 習 者 の 日 本 語 に お け る
日本語における語・接辞・接頭辞日本語における語・接辞・接頭辞日本語における語・接辞・接頭辞日本語における語・接辞・接頭辞
日本語における語
新 明解 国 語 辞典( 三 省堂)に よ る と 、 日 本 語 に お け る 「 語 」 」 と は 一 定 の
意 義 を 持 ち 、 文 の組み 立て る 基 本 的 な独 立し た 単位で あ る 。 語 は 文 を作る
た め の最も 重 要 な材料 で あ る 。個 別言 語 に は 文 の無 限で あ る と い わ れ る が その材料は数の有限である。
「 語 」 は 文 法 的 な働き 方 、 意 味 、 形 に 基づい て 、 い く つ か のグ ー ル ー プ
に 分 け る こ と が で き る 。 こ の そ れぞれ のグ ル ー プを品詞 と 言 う 。 需 要 な品 詞は動詞、名詞、形容詞、助詞である。
語 は 文 法 的 な働き 方 、 形 、 意 味 に 基づい て各 品詞 に 分 け ら れ る 。 一 方 、 語の構成要素に基づいて分けることができる。
語構成には、語はどのようにして造られるかという造語的な側面と、ある 語がどのような構造を持っているかと言う語構造上の側面がある。
例えば,「火事」が「火のこと」という和語が漢字表記になった結果、そ の漢字を音読みしてできた和製漢語である。それは造語論的な見方である。
そ れ に 対 し て 、 「火事」 は 「火(か)」 と 「事 (じ)」 と 言 う 漢字音、
の要素からなっているというのがご構造論的な見方である。
語 構 成 に 基づく と 、 語 は 一 つ の 要素だ け か ら な る も の と複 数の 要素か ら なるものという2つの種類にわけられる。「魚]、「木」等のようにそれ以上小さい部分に分けられないものが「単純語」という。
ま た 、 さ ら に小さ い 部 分 に 分 け ら れ る も の は 「 合 成 語 」 と 言 う 。例えば
「兄弟」、「お茶」、「受け取る」。
「合成語」には複合語、畳語、派生語の3つ種類がある。
語構成の上では、語の種類は次のように分類することが出来る。
表1:日本語の語の構成 表1:日本語の語の構成 表1:日本語の語の構成 表1:日本語の語の構成 単純語 用例:女、彼、見る、暑い、だれなど 複合語 用例:ごみ箱、試験勉強、吸い込むなど
畳語 用例:人々、国々、時々など
用例:不 機嫌、暑さ 、食い と め る 、子 供
っぽいなど
単純語は実質的な意味を表し、語の意味の中核的な部分を担う要素である 語基のーつからなる語である。この中には歴史的にみれば、合成語である場 合がある。
例えば、 「みち 」 のみは も と も と 接 頭 辞 で 「御 路」 で あ っ た し 、 「 まぶ た(瞼)」 は 「 目 の瞼」 で 、 さ か な(魚)は 「酒+御 菜(お か ず)の 意 」
だ っ た が 、酒を飲むと き に添え て食べ る物と し て 「魚(う お)」 を 用 い る
こ と が 多 か っ た と こ ろ か ら 、 「 う お 」 を 「 さ か な 」 と い う よ う に な っ た 、
な ど で あ る 。 こ の よ う な の よ う に 、遡っ て(さ か のぼっ て)分析す る こ と
は可能な語でも、現代の言語意識では1語である物は単純語として扱う。
合 成 語 は二つ 以 上 の 語 基 か ら な る複合 語 と 、同一 語 基 が 結 合 し た畳語 、
語 基 と 接 辞 か ら な る派生 語 に 分 け ら れ る が 、 語 の 中 に は 「 日 本 語 の 教 育 学
会 」 、 「機械化 す る 」 な ど の高次 結 合 語 が あ る 。最 終 段 階の 結 合 に よ て 、複合語か派生語を判定する。
日本語 +教育 +学会 (機械 + 化)+ する
複合語 +学会 派生語 + する
複合語 複合語
上 に の よ う 見 て き た よ う に 、 「 日 本 語 教 育 学 会 」 、[機械化]の よ う な
三 字以 上 の 漢 語 の 語 構 成 は和語 や 外来語 の 語 構 成 と同様 に 考 え ら れ る が 、
日本語における接辞
1.2.1 接辞の定義
新 明解 国 語 辞典( 三 省堂)に よ る と 、 接 辞 と は 語 基 に 付 い て 文 法 的 な 意 味などを表す形式で、独立し用いられない物である。
接 辞 は 語 構 成 要素の う ち の従属的 な 要素で 、 語 基 で あ る 単 語 や 語根の 前 又は後ろに付けられて一つの単語の構成要素となる形態素である。
1.2.2 接辞の特徴および分類
① 語基に何らかの意味を付け加える。
②語 基 に何か の 意 味 を 付 け 加 え る と と も に 文 法 的 資格を 与 え る品詞 を決 定する。
接 辞 の 分 類仕方 は 様 々 で あ る が 、 基 本 的 に は 接 辞 の 語 源 お よ び 接 辞 の位 置によって種類を分ける。
方法1:接辞の語源により
表2222 接辞の語源による分類接辞の語源による分類 接辞の語源による分類接辞の語源による分類
和語接辞 漢語系接辞 外来語接辞
方法2:接辞の位置により
表33 33 接辞の接辞の接辞の接辞の位置による分類位置による分類位置による分類位置による分類
日 本 語 に お い て は 、 接 中 の 接 辞 の存在が認め ら れ な い の で 接 頭 辞 と 接尾
辞 の 問 題 に な る 。 本 研 究 で は 、 ま ず 、二 番目 の 方 法 に 基づい て展 開す る 。
次 に 、 本 研 究 の 研 究 対 象 と し て 、 接 頭 辞 の 分 類 は 、 一番目 の 方 法 に 基づいて和語接頭辞、漢語接頭辞、外来語接頭辞に分けて説明する。
日本語における接頭辞
接 頭 辞 と は 語 構 成 要素の う ち の従属の 一 つ の 要素で 、 そ れ 自 身 は 単独で
用 い ら れ る こ と が な く 、 語 基 で あ る 単 語 や 語根の 前 に 付 い て 、 一 つ の 単 語 の構成要素となる形態素となる。
例:無+関係=無関係 未+確認=未確認 大+急ぎ=大急ぎ 小+寒い=小寒い
接 頭 辞 は 接 辞 の 一種で 、 語 の 前 に 付 い て 、 語 の 意 味 を補っ た り 、 語 の 意
味 を逆 転さ せ た り す る 形態 素を 言 う 。 ま た 、品詞 を転 換さ せ る 力 を 持 っ て
接中辞 接尾辞 接頭辞
い な い 。 「 接 頭 語 」 も呼 ばれ る が 、独 立に 使 わ な い の で普通「 接 頭 辞 」 と 呼ぶ傾向がある。
1.3.2 接頭辞の特徴 前田勇(1968)は 近世上 方 語 の 接 頭 語 の 性質に つ い て 「 近世の 上 方 語 彙 に
接 し て強い印象 を受け る事象 の 一 つ に 、接 辞 の 特 異 性 と い うこ と があ る 。 その特異性は、少なくとも次 の三点において際やかである。
一つは語彙の豊饒ということである。
二つ は そ の 豊饒が前代 (こ こ に 前代と は 近世以 前 を さ す)か ら の堆 積て
゙は な く て当代に入っ て か ら の 多産がも た ら し た も の であ る と い う こ とである。
三つ は 語 彙 の 一 つ 一 つ がき わ め て旺 盛な 生産力 を有す る と い う こ と で ある。
ま た 、 結 合 相手の品詞 に つ い て は 、 日 本 語 の 接 頭 辞 は名詞 ・ 形 容 詞 ・ 形 容動詞・動詞など複数の品詞に付くことが出来る。
1.3.3 接頭辞の分類 日本語の接頭辞は意味を添加させるだけ、品詞転換させない。
「 よ く 分 か る 日 本 語 」(アル ク )に よ っ て 、 漢 語 性 接 頭 辞 の 中 で も 、 否
定 の 意 味 を 表 す 「無」 、 「不」 、 「未」 な ど や 「 大 」 「有」 の よ う に品詞 を転換させる場合もある。
接頭辞 名詞 形容動詞の語幹
む + 遠慮 無遠慮
不 + 安定 不安定
大 + 規模 大規模
「 語 彙 の 研 究 と 教 育(下)」 な ど を 参 考 に 、 接 頭 辞 の品詞 性 や 意 味 な どを参考して分類せると、次のようになる。
① 形容同性接頭辞
(例): 大通り: đường lớn
小犬: chó con 新世紀: thế kỷ mới 初夢: giấc mơ đầu tiên
② 待遇性接頭辞
(例): お祝い: sự chúc mừng
③ 否定性接頭辞
(例): 無意識: không có ý thức
無愛想: không có tình cảm
④漢 語 性 接 頭 辞(漢 語 の統辞 法 に従っ て 形 成 さ れ た 語 の う ち 、 接 頭 辞 的 なもの)
(例): 超高層: tầng cao chót vót
対中国: đối với Trung Quốc 被差別: bị phân biệt
⑤ 副詞性接頭辞
(例): かー細い: vô cùng tỉ mẩn
けーだるい: rất mỏi ものーがなしい: vô cùng buồn
た だ し 、 本 研 究 で は筆者 が 接 頭 辞 の 語 源 や 意 味 な ど を 考慮し て 分 類 す る と、次のようになる。
① 和語接頭辞
② 漢語系接頭辞
③ 外来語接頭辞
まとめ
そ の よ う に 、 日 本 語 に お け る 語 と 接 辞 に つ い て の 観 察 を し た 。 語 構 成 に 基
づく と 、 語 は 一 つ の 要素だ け か ら な る も の と複 数の 要素殻な る も の と い う 2つ の種類 に わ け ら れ る 。 語 構 成 の 上 で は 語 は 単 純 語 と 合 成 語 を 分 け 、 合 成語は更に分けると、複合語・畳語・派生語を含む。
ま た 、 接 辞 は 語 源 に よ り 、和語 接 辞 ・ 漢 語 系 接 辞 ・ 外来語 接 辞 と 分 か れ 、 位置により接頭辞・接中辞・接尾辞に分かれる。
最後に 、 日 本 語 に お け る 語 お よ び 接 辞 に つ い て の に よ り 、 日 本 語 に お ける接頭辞と漢語系接頭辞について、第二章で観察を行う。
日本語における漢語系接頭日本語における漢語系接頭日本語における漢語系接頭 日本語における漢語系接頭辞辞辞辞
漢語系接頭辞の起源および定義
漢語系接頭辞の起源 「漢語系接頭辞」という概念はいつうまれたかにつ
い て は 、 阪 倉( 1973 )に よ る と 、 「幕 末か ら明治期に か け て 、 洋 学 の
「 文典」 の か た ち で 日 本 に は い っ て き た西洋 の品詞 分 類 の潮 流と な っ た 」 という。また, その中で、大槻文彦が『言海』の巻頭に掲載した 「語法指 南」( 1882 )で現れ た八品詞 が 、 日 本 語 の 文 法 研 究 の な か に安定 し 、現 代
ま で品詞 の た て か た に お け る 基準と な っ て い る こ と は周 知と お り と 述 べ て いる。
こ の 「 語 法 指南」 で は 、八品詞 以 外 に 、 「 接 頭 辞 」 と 「 接 頭 語 」 が 示
さ れ て い る 。 そ の 中 で 、和語 に 加 え て 、 漢 語 に つ い て は 以 下 の よ う に記述
さ れ て い る 。 接 頭 辞 で は 、二 字漢 語 の 構 成 要素と し て 用 い ら れ て い る も の
が 多 い こ と 、 ま た 、 「新発明」 「高性能」 な ど の3 字漢 語 の 多 用 化 が 起 こ
る 以 前 の 状 況 を反映し て い る と 思 わ れ る 。 こ の よ う に 、 特 に 漢 語 を取り 上
げ て 示 し て り る店は注目 さ れ る 。 「 語 法 指南」 で は 、 接 辞 と い う 語 は 用 い
ら れ て い な い が . 日 本 語 の品詞 分 類 に お い て 、初め て 「 漢 語 接 辞 」 と い う
語種に も注目 し た 言 語 単位を明 確に 示 し た 点 は 特筆に値す る 。 「 語 法 指 南」 は 、 文 法 書 で あ り 、初め て 漢 語 接 辞 が 言 語 単位と し て確知さ れ る よ う になったと言える。
2.1.2 漢語系接頭辞の定義 漢語系接頭辞については研究者らによって、定義が異ちるれたが、本研究 では漢語系接頭辞の定義は次のようにする。
漢語系接頭辞とは漢字で書かれ、音読みで読まれる接頭辞である。
漢語系接頭辞の分類
非常・未来・無恥」 のような熟語化し た 単語は本研究の研 究 対象から除外 することとする。
2.2 2.2 2.2 2.2 漢語系接頭辞の分類 漢語系接頭辞の分類 漢語系接頭辞の分類 漢語系接頭辞の分類 田村(2014)の各辞書からの調査により、和語系接頭辞を 68 個と漢語系 接頭辞を42個統計することができた。しかし、本研究では各辞書から調べ
た 結 果 で 漢 語 系 接 頭 辞 を52 個 統 計す る こ と が で き た 。 そ れ ら の 漢 語 系 接 頭辞は次のような5つの大きいグループを分けられた。
① 否定性漢語系接頭辞
② 過去性漢語系接頭辞
③ 形容詞性漢語系接頭辞
④ 待遇性漢語系接頭辞
⑤ その他の漢語系接頭辞 2.2.1 否定性漢語系接頭辞 日本語の否定性漢語系接頭辞とは否定の意味を表す漢語系接頭辞である。
現 代日 本 語 辞典大第五 版 』に よ る と現 代で頻繁に 使 わ れ て い る 接 頭 辞 は
「非・不・無・未」と挙げられる。
た だ し 、 「未 曾有」 の よ う な 一 単 語 化 し て 分 割 り し に く い も の や 「 非
常 」 、 「無礼」 「無恥」 「未来」 の よ う な熱語 化 し た 単 語 は 本 研 究 の 研 究 対象から除外することとする。
・ 「~ではない」「~しない」の意味を表す。
日 本 語 の 「 非 」 は 「ヒ」 と読ま れ ま し た 。 「 非 」 の後接 要素、 語種か ら
みれば、 漢 語 、 外来語 と混 種語 が あ る 。 し か し な が ら 、 外来語 と混 種語 は あるが、現代であまり使っていない言葉である。
結語品詞としてみれば、「非」は名詞・形容動詞に付く。
(例):非常識 PHI + THƯỜNG THỨC = bất bình thường
非公式 PHI + CÔNG THỨC = không chính thức 非課税 PHI + KHÓA THẾ = không tính thuế 非人情 PHI + NHÂN TÌNH = không có tình người, nhẫn tâm 非論理 PHI + LUÂN LÝ = không có luân lý
非利益 PHI + LỢI ÍCH = phi lợi nhuận 非公開 PHI + CÔNG KHAI = không công khai 非公式 PHI + CÔNG THỨC = không chính thức
日 本 語 の 「不」 は呉 音の 「フ」 と慣用音の 「フ ゙」 の二つ読み方 があ
り 、 「フ」 は 「フ ゙」 よ り ずっ と数多 く 使 わ れ て い る 。 日 本 語 の 「不」
は漢語・和語などと結合できる。
「不」は名詞・形容名詞に付く
・「~ではない」「~しない」などの意味を表す。
(例):不必要 BẤT +TẤT YẾU = Không cần thiết
不可能 BẤT + KHẢ NĂNG = Không có khả năng 不正直 BẤT + CHÍNH TRỰC = Không chính trực 不親切 BẤT+ THÂN THIẾT = Không tử tế
不採用 BẤT+ THẢI DỤNG = Không tuyển dụng, không chấp nhận 不なれ BẤT + QUEN = Không quen, chưa có kinh nghiệm
・「~が良くない」「~がない」などの意味を表す。
(例):不機嫌 BẤT +CƠ HIỀM = Không vui vẻ
不景気 BẤT + CẢNH KHÍ = Suy thoái, ( kinh doanh) , ế ẩm 不都合 BẤT +ĐÔ HỢP = Không thích hợp, không ổn thoả 不健康 BẤT KIỆN KHANG= Không khoẻ
注意:不(ふ)と書いて、ぶ(不)と言場合がある。
3 無 (む) VÔ [~が良くない]「~がない」などの意味を表す。
日本語の「無」は呉音の「ム」と漢音の「ブ」の二つ読み方がある。
ま た 、 日 本 語 の 「無」 は 漢 語 ・和語 ・ 外来語 ・混 種語 な どと 結 合 で
き る 。 「無」 が漢 語 系 の 前 に く る場合 だけ 、 「 ム 」 「フ ゙」 の二つ 発
音を と る が、和語 ・ 外来語 、混 種語 な どの 語 基 に つ く場合 、 「 ム 」 の 発音しかとらない。
「無」は名詞 に付く。
(例):無愛想 VÔ + ÁI TƯỞNG = Không mặn mà
無作法 VÔ + TÁC PHÁP = Không quy củ, thô lỗ không phép tắc 無遠慮 VÔ + VIỄN LỰ = Không khách sáo
無条件 VÔ + ĐIỀU KIỆN = Vô điều kiện 無軌道 VÔ + QUỸ ĐẠO = Không có quỹ đạo 無記名 VÔ + KÝ DANH = Không ghi tên
・ 「 ま だ ~し て い な い 」 「 ま だ時 間 が来て い な い 」 な どの 意 味 を 表す。
日 本 語 の 「未」 は 「ミ」 と読ま れ る 。 日 本 語 の 「未」 は 「不」 と同じ
ように、漢語・和語などと結合できる。
「未」は名詞・サ変動詞に付く。
(例): 未完成 VỊ + HOÀN THÀNH = Chưa hoàn thành
未開拓 VỊ + KHAI THÁC = Chưa khai thác 未経験 VỊ + KINH NGHIỆM = Chưa có kinh nghiệm 未処理 VỊ + XỬ LÝ = Chưa xử lý
未成年 VỊ + THÀNH NIÊN = Vị thành niên 未報告 VỊ + BÁO CÁO = Chưa báo cáo 未結婚 VỊ + KẾT HÔN = Chưa kết hôn
次 に は 否 定 性 漢 語 系 接 頭 辞 の 「 非 ・不・無・未」 の 意 味 お よ び 結 合品詞 のまとめの表である。
表4「非・不・無・未」の意味および結合品詞のまとめ 表4「非・不・無・未」の意味および結合品詞のまとめ 表4「非・不・無・未」の意味および結合品詞のまとめ 表4「非・不・無・未」の意味および結合品詞のまとめ
2.2.2 過去性漢語系接頭辞
1 旧 (きゅう) CỰU
・「前の」「元の」「古い」などの意味を表す。
(例): 旧秩序 CỰU + TRẬT TỰ = Trật tự cũ
旧体制 CỰU + THỂ CHẾ = Thể chế cũ 旧住所 CỰU + TRỤ SỞ = Chỗ ở cũ 旧国鉄 CỰU +QUỐC THIẾT = Đường sắt quốc gia cũ 旧大蔵省 CỰU + ĐẠI TÁNG TỈNH = Bộ Tài chính cũ
意味 ま だ〜し て い
〜がない 〜ではない
名詞 サ変動詞
名詞 形容動詞 サ変動詞
名詞 形容動詞
名詞 形容名詞
「 前 」 は地位 名と のみ付 く 。 「 前+職業名」 は あ る個人 が か つ て そ う で あ ったという個人の属性を表す
例:前首相 TIỀN + THỦ TƯỚNG = thủ tướng trước でも、前サラリーマンと言わない。
・ 今より一つ前であることを表す。
前世紀 TIỀN + THẾ KỈ = thế kỉ trước 前職場 TIỀN + CHỨC TRƯỜNG = nơi làm việc trước đây 前進捗 TIỀN + TIẾN DUỆ = tiến độ trước đây
・ 二つに分けた場合の前の方を表す。
(例): 前半生 TIỀN+ BÁN SINH = nửa đầu cuộc đời, nửa đời về trước
前学期 TIỀN + HỌC KÌ = nửa đầu học kì
意味 「 前 の 」 「元の 」
「古い 」 な ど の 意 味 を表す
今よ り 一 つ 前 であ ることを表す。
二つ に 分 け た場合 の 前の方を表す
結語語幹の注意点 は じ め 、 以 前 な ど
の意味を表す。
「 前 」 は地位 名と の み付く。
のパタ ンが あ る が 、
職業名が 大統領と
か 、 大臣な ど の 漢 語
と つ く こ と が で き
る 。 し か し 、サラ リ
マン、エ ンジニ アな
ど のカ タ カナ 語 の職
業名に つ く こ と が で きない。
2.2.3 形容詞性漢語系接頭辞
「良い」「好ましい」「立派な」などの意味を表す。結語品詞としてみれ
ば、「好」は名詞 に付く。
(例): 好条件 HẢO + ĐIỀU KIỆN = điều kiện tốt
好人物 HẢO + NHÂN VẬT = người tốt,người có nhân cách tốt 好成績 HẢO + THÀNH TÍCH = thành tích tốt
まとめ
また、 漢語系接頭辞の分類・用法を詳細に述べた。日本語における漢語 系接頭辞は意味によって、52個を5つの大きいグループに分けられた。
な お 、品詞転 換機 能に 関 し て は 、 一般的 に 日 本 語 の 接 頭 辞 に 語 の品詞 性 (文法的な性格) を定したりする機能はないので日本語における漢語系接頭 辞も基本的に、語の品詞性(文法的な性格) を定したりする機能はない。
52 個の 漢 語 系 接 頭 辞 の な か 、 そ れぞれ の 漢 語 系 接 頭 辞 の 結 合 語 基 の数量が
ち が う 。 ま た 、グ ルー プの 中 に 、 漢 語 系接 頭 辞 に よ っ て 、造語 力 も ち が う 。
た と えば、 形 容 詞 性 漢 語 系 接 頭 辞 のグ ル ー プに 、 「 大 」 と い う 漢 語 系 接 頭
辞 は 漢 語 系グ ー ル プの 中 の 形 容 詞 の 形 容 詞 よ り 結 語 力 が強い が 、 「高」 、
「低」という漢語系接頭辞の造語力が弱い。
考 察 の 結 果 に よ る と 、 「全チーム 」 の 「全」 、 「激 ブレ ーキ」 の 「急」 、
「抗ヒスタ ミ ン剤」 の 「抗」 、 「高カロリ ー」 の 「高」 、『低カロー リ』
の 「低」 な ど の 漢 語 系 接 頭 辞 は 外来語 の 語 基 と 付 く可 能性 が あ る 。 し か し
な が ら 、 漢 語 系 接 頭辞 で あ る の で 、 一般的 に 漢 語 の 語 基 と 結合傾向 が あ る 。 和語語基と外来語語基とも結語するが、数量が少ないと言える。
否 定 性 漢 語 系 接 頭 辞 は 意 味 を添加 す る だけ では な く 、 結 合 対 象 と な る
語 の品詞 性 を変え る働き を 持 っ て い る 。 た だし 、 「 非 」 の品詞転 換機 能 が他 「不・無・未」 よ り弱い 。 ま た 、 結 合 相手の品詞 に つ い て は 、 日 本
語 の 漢 語 系 接 頭 辞 は名詞 ・ 形 容 詞 ・ 形 容動詞 ・動詞 な ど複 数の品詞 に つ くことが出来る。
第三章 第三章 第三章 第三章
日本語における漢語系接頭辞および 日本語における漢語系接頭辞および 日本語における漢語系接頭辞および 日本語における漢語系接頭辞および
ベトナム語における漢語系接頭辞との比較 ベトナム語における漢語系接頭辞との比較 ベトナム語における漢語系接頭辞との比較 ベトナム語における漢語系接頭辞との比較
外 国 語 を 身 に つ け る た め に 、 他 の 言 語 、 特 に 自 分 の母国 語 と 比 較 す る の が早道だ と い わ れ て い る 。 こ の よ う な二つ の 言 語 あ る い は二つ 以 上 の 言 語 を比較研究することは「対照言語学」(contrastive linguistics)と言う。これ
に よ っ て 、二つ あ る い は二つ 以 上 の 言 語 の共通点 と 相 違 点 が確 認さ れ 、 外
国 語 教 育 に も 役 に立つ同時 に 、 そ れぞれの 言 語 の 特 徴 も捉える よ う に な る 。
そ れ に 加 え て 、二つ の 言 語 の共通点 と 相 違 点 は 、 本来、 そ れ ら の両国 の 文
化 や両国 の 人 々 の 考え る の共通点 と 相 違点 か ら 生 じ る と 言 われ て い る の で 、
日本語における漢語系接頭辞および日本語における漢語系接頭辞および日本語における漢語系接頭辞および日本語における漢語系接頭辞および ベトナム語における漢語系接ベトナム語における漢語系接ベトナム語における漢語系接 ベトナム語における漢語系接頭頭頭頭 辞との比較辞との比較辞との比較辞との比較
ベトナム人日本語学習者に対する日本語の漢ベトナム人日本語学習者に対する日本語の漢ベトナム人日本語学習者に対する日本語の漢 ベトナム人日本語学習者に対する日本語の漢語系接頭辞の指導法語系接頭辞の指導法語系接頭辞の指導法語系接頭辞の指導法
ベトナム人日本語学習者に対する日本語の漢語系接頭辞の使用力向 上の提案
辞 の 使 用力を促す ため に 、 ど の よ う な 指 導 を 行 えばよ い か に つ い て検討す る。
4.2.1 語彙指導法 日本語教育において、語彙指導についての研究は様々である。
甲斐(1989)は、国 語教育における語彙 指導の具体的な方法 として、次 の10種をあげている。
① 実物提示法―スライド、さし絵、模型などを含める。その提示が可能 であれば、もっとも簡便な方法。図解法もここに入る。
② 連想 法―ど う い う 言 葉 が連想 さ れ る か を 指摘さ せ る 。 こ れ は 、 そ の 語句 の属性 あ る い は価 値的 な 意 味 を把 握さ せ る こ と に な る 。連想 法 で は ま た 、
類 義 語 や反対 語 、 上位語 、 下位語 、同じ種類 の 語句が取り 上 げ ら れ る こ と になる。
③ 類義語 の指摘―言い換え法 。類似の 語句の指摘によ って 、懸案の語句 の理解を図る。類義語の中で適切な語句の選択ができるように図る。
④短作文―そ の 語 を 使 っ た 1~3文 構 成 の短文 を作ら せ る 。 形 容 詞 や 形 容
動詞 の よ う に価 値・評価に 関 係 す る 語句の場合 は 1 文 で な く3文 構 成 と す る。
5辞書での確認―国語辞書、漢和辞典などを使って確認させる。
6語義の説明―どういう意味か、どういう事物かを説明させる。
7意 味 分 類―『分 類 語 彙 表』 『類 語 国 語 辞典 』の よ う な 意 味 上 の区 別を さ せる。
8派生 ・ 関連語 の 指摘―ど う い う派生 語 が あ る か 、 ど う い う 関連語 が あ る
か を説明さ せ る 。 関連語 に は 類 義 語 以 外 に 対 義 語 や 上位語 ・ 下位語 も含まれる。
9空欄補充法―付与の文表現の空欄箇所に適切な語句を入れさせる。
10 筆記法―その語句についての知識を書かせる。
こ れ ら は主に 、読解(理 解 活動 )に お け る 重 要 語句の選 択や 難 語句の 解釈
な ど に よ っ て 、 あ る い は作文(表現活動 )に お け る 適 切 な 語句の選 択や推
敲な ど に よ っ て 行 わ れ る も の で あ る 。 外 国 人 学 習 者 に 対 す る 日 本 語 教 育 に
お い て は 、 そ の 他 に媒 介語 に よ る説明や翻 訳な ど に よ っ て 語 彙 指 導 を す る 方法も可能であろう。
一 方 、 加納( 1997 )で は 、 外 国 人 学 習 者 に 漢字の 学 習 方 法 に つ い てア ンケ
ート 調 査 し た が 、 そ の 結 果 、 学 習 者 は 次 の よ う な 方 法 を 使 っ て い る こ と が わかった。
① テキストに出てくる順に覚える。
② 同じ部首の漢字や類似形の漢字をまとめて覚える。
③ 読んでいる文章に知らない漢字があったら辞書を引いて覚える
④ ノートに整理して覚える。
⑤ 字源や記憶のためのストーリーを使って覚える。
⑥ 熟語や例文といっしょに覚える。
⑦ 何回も手で書いて覚える。
⑧ 何回も読んで覚える
⑨ カードを作ったり部屋にリストを貼ったりして工夫している。
⑩その 他:漢字をイメージ化し て覚える 類義語 や反義語 、関連語な どの連 想により覚える。