研究の背景
によると、ベトナムにおける日本語学習者数は 64,863 人であり、世界 8 位とな っている。
ベトナムの日本語教育は文法を含めるすべてのスキルを重視している。日本 語を教えた時、学習者はよく助詞を間違えることを認めた。日本語母語話者は話 す時、助詞をあまり使いない。しかし、書く時にはどんな助詞を使うか、区別の 混乱も尐なくない。それで、日本語が母語ではない外国人日本語学習者にとって もより一層難しくて理解しにくいものであろう。
日本語を教える立場からみると、助詞を正しく使うことはどのように分かり やすく説明できるか等のような悩みが多いようである。日本語母語話者ではない 教師の場合は、より複雑な課題になるであろう。
また、学習者の立場からみると、その困難を越えるのに、どんな練習が必要 となるかと考えなければならない。助詞の意味と用法を理解して、さらにそれを 運用できたら、日本語能力を実質的に向上させるのではないだろう。
初級では、よく助詞を間違える学習者が多い。特に、格助詞である。そのため、本論文では、格助詞の概念、用法などを調べる。それから、学習者の格助詞の間違いを考察し、日本語教育における教授法を提案する。
日本語の格助詞に関する各先行研究
日本語の助詞に関する研究は数多くある。以下はその一部である。
奥津敬一郎、 沼田善子(1997)は伝統的な国文法の分類学的な性格を批判し、
文構成の単位を自立語と非自立語、詞と辞に二大分類する誤りを指摘し、非自立 語に属する「助詞」というカテゴリーを認めない立場をとっている。
序章では助詞の解体・再編成が論じられ、以後、形式副詞、とりたて詞、格 助詞「が」「を」「に」が論じられている。
最初に分類学的文法論が論じられ、橋本文法の品詞体系を生成文法の立場から体系的ではなく交差分類に過ぎないものとし、構文論の中で品詞論に然るべき位置をあたえようとするものである。
伊藤 健人(2002)は格の意味解釈に深く関わっている深層格とその表示に関わ る格助詞の役割といった問題について、従来の研究を整理し、今後の課題につい て述べる。また、深層格について検討し、格の意味解釈における格助詞の役割に ついて考察する。そして、4 日本語の格研究における重要課題(解決すべき問題)
について述べる。
冇, 愛玲 (2007)は日本語の格助詞「に」「で」「を」を取り上げ、その習得 順序、機能別正用率を考察する。
宮島達夫(2009)は日本語表現についての疑問に、文法的見地から網羅的・
体系的に答えるシリーズの第 6 回配本。『現代日本語文法』全7巻は、かつてなかったほどに日本語の文法事実が豊かに詰まっている。日本語の文法現象について調べたいこと・知りたいことがたくさん載っている。第2巻では、分構造の最も中核部分を構成する、格の組み合わせが作り出す文型・構文を取り扱い、意味的な格を取り出し分析・記述を施した。
研究の目的
本論文の目的は、まず、格助詞に関する研究であり、格助詞の概念、それに 関わる性質、基本的な用法と様々な格助詞の用法を扱うことである。
ところが、さまざまな原因で、日本語学習者が格助詞の使用の際には、誤解 したり、間違ったりするのがよくある。それで、日本語の教育上では、通常生じ る誤解を避けるには、適切な指導が必要になる。
本論文において、高校で日本語を勉強している学習者を中心に、格助詞を用いるとき、どんな誤解が通常生じるか考察し、その忌避には、どんな指導方法が適当であるか、記述するのは本論文の主な目的となる。
研究の対象
ところで、これまで日本語の格助詞についての研究が数え切れないほど多くある。そして、日本語の格助詞を使うときと誤用に関しても、かなり研究されてきた。しかし、本論文では、ベトナム人学習者を中心にし、その誤用を考察する。
具体的に言えば、ハノイ国家大学・外国語大学・付属外国語英才高等学校において、日本語コースに従う学生を対象にし、その使用実況を見る。つまり、本研究はベトナム人学習者の格助詞の使用の際に見られる誤用を通し、日本語の格助詞の誤用について調べる。さらに、そのような誤用を忌避するには、どんな指導方法が必要になるかも述べる。
研究方法
第 1 章では、まず、日本語の格助詞に関する各先行研究の一部をまとめる。
日本語における助詞に関して言及する。助詞の概念と分類をまとめる。それから、
日本語における格助詞の概念と性質を述べた。さらに、複合格助詞について言及 するが、具体的に述べない。
第 2 章では、格助詞の用法・述語との関係について述べる。基本的な用法と 述語によって、様々な格助詞の用法を具体的に分析する。
第 3 章では、ハノイ国家大学・外国語大学・付属外国語英才高等学校で日本 語を勉強している学習者を対象にし、格助詞に関するテストを行う。学習者の間 違いを調査し、その結果を分析する。
さらに、第 1 章及び第 2 章を踏まえて、日本語を教える教師の立場から、適切な指導方法を考えてみる。また、調査の結果から、誤解を避けられる解決、そして学習者の文法力を高める提案を出す。
論文の構成
序論では、研究の背景、研究の目的、研究対象と研究方法について述べる。
本論は第 1、2、3 章という三章から構成されて、次のように展開される。
第 1 章: 日本語における助詞 本章では、日本語における助詞の概念、助詞の分類と他の言語における助 詞について言及する。そして格助詞の概念、格助詞の性質と複合格助詞に ついて述べる。
第 2 章:格助詞の用法・述語との関係 本章では、先行研究に基づいて、基本的な用法と述語と格助詞の関係を具 体的に分析する。又、日本語の述語も述べる。
第 3 章:学習者の格助詞の使用の調査及び日本語教育における格助詞の指
本章では、調査の結果を基に分析する。格助詞の教示と教科書の格助詞の 現状について述べる。そして、日本語の格教授法を述べ、日本語教育への 格助詞の指導に関して提案する。
結論は研究のまとめ、及び今後の問題について述べる。
最後に、考察文献、付録を記述する。
日本語における助詞・格助詞
日本語における助詞
助詞とは、日本語の特別な品詞の一つである。他言語の後置詞、接続詞に当 たる。
日本語においては、単語に付加し自立語同士の関係を表したり、対象を表し たりする語句の総称。付属語。活用しない。俗に「てにをは」(弖爾乎波・天爾 遠波)か「てにはを」(弖爾波乎)と呼ばれるが、これは漢文の読み下しの補助 として漢字の四隅につけられたヲコト点を左下から右回りに読んだ時に「てには を」となることに因るものである。
日本語の助詞の使い分けには曖昧さがあり、例としては、「海に行く」と
「海へ行く」の「に」「へ」や「日本でただ一つの」と「日本にただ一つの」の
「で」「に」や「目の悪い人」や「目が悪い人」の「の」「が」、「本当は明日 なんだけど」「お言葉ですが」「さっき言ったのに」「終わるの早いし」に見ら れる終助詞的な接続助詞の使用などが挙げられる。また、格助詞さえ覚えていれ ば助詞のおおよそは分類できる。これは、副助詞は数多くあるが、接続助詞や終 助詞はわかりやすく、格助詞はそれほど数が多くないためである。
以下には、様々な辞典に助詞の解説もある。
ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説 日本語の品詞の一つである。一般に、付属語 (辞) のうち活用しないものをさす。それ自身単独で発話されることはほとんどなく、その前の単語に続けて発話される単語である。この点で、助詞は後置詞の一種とみることができる。助詞の分類は学説により異なる。山田文法では、句のなかで果す機能を中心に、格助詞、副助詞、係助詞、終助詞、間投助詞、接続助詞に分ける。橋本文法では、切れ続き,接続関係などをもとに、副助詞、準体助詞、接続助詞、並立助詞、準副体助詞、格助詞、準副助詞、係助詞、終助詞、間投助詞の 10 種に分ける。時枝文法では、話し手の表現の立場を重視し、格を表わす助詞、限定を表わす助詞、
大辞林 第三版の解説 助詞とは国語の品詞の一つである。付属語で活用のないものである。自立語 に付いて、その語と他の語との関係を示したり、その語に一定の意味を添えたり する。文中でのはたらき、接続の仕方、添える意味などによって一般に格助詞・
接続助詞・副助詞・係助詞・終助詞・間投助詞などに分類される。なお、これら のほかにも、並立助詞・準体助詞などが加えられることがある。
デジタル大辞泉の解説 品詞の一つである。付属語のうち、活用のないものである。常に、自立語ま たは自立語に付属語の付いたものに付属し、その語句と他の語句との関係を示し たり、陳述に一定の意味を加えたりする。格助詞・副助詞・係助詞・接続助詞・
終助詞・間投助詞(さらに準体助詞・並立助詞その他)などに分類される。古く から助動詞あるいは接尾語などとともに「てにをは」と呼ばれた。
百科事典マイペディアの解説 日本語の品詞の一種である。古来〈てにをは〉と呼ばれているものに当たる。
単独では文節を構成し得ない語のうち,活用のないものである。名詞,動詞,形 容詞などがなんらかの事態そのものを表す働きをするのに対し,助詞は,話し手 による,事態の意味づけ,それらの事態の間の関係づけにかかわる働きをする。
世界大百科事典 第2版の解説 日本語の品詞の一つである。古来〈てにをは〉とよばれているものにあたり、
〈雤がふる〉〈学校から帰る〉の〈が〉〈から〉などがそれである。この品詞に 属する語は、文節の構成にあたって、つねに他の語の後に伴われ,文節の頭に立 つことがない。この点で助動詞とともに、名詞、動詞、形容詞、副詞、接続詞な どの自立語と区別して付属語とよばれるが、さらに付属語の中で活用の体系をも たないと認められる点で、助動詞と区別される。助詞の役目は、名詞、動詞、形 容詞などが、客観視される事態そのものを表すのに対して、それらの事態につい ての言語主体(話し手)の意味づけに関係する。
日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 日本語の品詞の一つである。辞のうち、活用がなく、単独で用いられることのないものである。それ自身は実質的観念をもたず、上接語句の指し示す客体的な事物・事態に対する言語主体のかかわり方や、聞き手に対する言語主体のかかわり方などを示す。活用をもつ辞である助動詞とともに、膠着(こうちゃく)語としての日本語の特色をなしている。助詞の働きには、素材間の関係の認定に関するもの、素材に対する評価限定を示すもの、陳述の強さに関するもの、文の性質を決定するもの、聞き手との関係を結ぶものなどがあるが、学説によって分類基準が異なり、また名称が同じでも所属語に異同がある。
大槻文彦(おおつきふみひこ)は、付く語の種類によって 1 類、2 類、3 類に分 かち、山田孝雄(よしお)は職能とその示す関係とによって次のように分類した。
(1)格助詞――体言または副詞に付いて、それらが句の構成要素としてどんな資格 にたつかを示すもの。「が・の・を・に・へ・と・より・から・で」など。(2)副 助詞――用言の意義に関係をもつ語に付いて、はるか下にある用言の意義を修飾 するもの。「ばかり・まで・など・やら・か・だけ・ぐらい」など。
日本語における格助詞
名詞は文の中で、動詞や形容詞などの述語に対して、さまざまな文法的役割 をもって結び付いている。この文法的役割のことを「格」と呼ぶ。格は、言語に よっては語順や名詞の活用などによって表されるが、日本語においては、名詞の 後ろに付く「が」「を」「に」「へ」「で」「から」など一定の独立した形式で 示されるのが普通である。これらの形式のことを「格助詞」と呼ぶ。
また、名詞と述語との関係ではないが、名詞と名詞とを結びつける「の」も、
ここでは格助詞の仲間に含めて扱うことにする。
「として」や「によって」のように、格助詞と動詞などの結びつきが固定化 して格助詞相当の機能を持つようになったものを複合格助詞という。複合格助詞 は、述語との間の意味関係をより明確に表したり、格助詞では表しきれない意味 を表したりする。本研究は複合格助詞について具体的に言及しない。
さらに、他の辞典に格助詞の説明もある。
デジタル大辞泉の解説 格助詞とは助詞の種類の一つである。体言または体言に準ずるものに付いて、
それが文中で他の語とどんな関係にあるかを示す助詞である。現代語では、「が」
「の」「を」「に」「へ」「と」「より」「から」「で」など。古語では、「が」
「の」「を」「に」「へ」「と」「より」「から」「にて」など。
大辞林 第三版の解説 格助詞とは助詞の一類である。体言または体言に準ずる語に付き、その語が 他の語に対してどのような関係に立つかを示すものである。「花が咲く」「学校 へ行く」の「が」「へ」など。口語では「が」「の」「を」「に」「へ」「と」
「より」「から」「で」など、文語では、これらのほかに「にて」「して」など があり、さらに、古くは「つ」「ゆ」「ゆり」「よ」などもあった。
1.2.2 格助詞の性質
1.2.2.1 格助詞と用法の対忚
一般に、一つの名詞につく格助詞は一つである。複数の格助詞がつくことは 基本的にない。一つの名詞に複数の格助詞がつくと、その名詞が述語に対してど のような意味関係をもっているのか特定できなくなるからである。
*京都駅でから荷物を送った。
*これから友達とに会う予定だ。
「京都で荷物を送る」と「京都から荷物を送る」はどちらも可能であるが、
「京都でから」のように「京都」という名詞が「で」と「から」をともにとることはできない。同様に、「友達と会う」と「友達に会う」はどちらも可能である
が、「友達とに」のように「友達」という名詞が「と」と「に」をともにとるこ とはできない。
ただし、形容詞述語をとる文では、「から」に「が」がつく例外が見られる。
その病院に行くには、駅の西口からが近い。
当ホテルのご予約はインターネットからがお得です。
「まで」にも、格助詞がつく例がある。
ここまでで全行程の約半分を歩いたことになる。
5時までに出かけなくてはいけない。
「から〜まで」のように範囲を表す場合も、その後に格助詞がつく例がある。
この花は、8月中旬から9月下旬までが見頃だ。
東京から大阪までを鈍行で9時間かけて移動する。
1.2.2.2.文法格と意味格
*文法格と意味格の区別 格助詞の中には述語や目的語といった文法関係を表すという文法的な性質が 強いものと、起点や手段といった意味関係を表すという意味的な性質が強いもの である。文法的な性質が強いものを文法格といい、意味的な性質が強いものを意 味格という。
「が」「を」は文法格である。「に」の一部にも文法格的なものがある。
佐藤が弟をたたいた。
佐藤が鈴木を山本先生に紹介した。
一方、「で」「から」「まで」などは意味格である。
はさみで切る。
故郷からみかんを送ってきた。
歩いて家まで帰った。
文法格と意味格とでは、ヴォイスにおける格助詞の変更、「は」や「の」の 付加、話し言葉における省略といった文法現象において違いがある。
*ヴォイスにおける格助詞の変更の可能性 格助詞の中には、受身や使役のようなヴォイスによって、他の格助詞に変更 されることがあるものと、変更されることがないものがある。
「が」、「を」、一部の「に」のような文法格は、主語や目的語といった文 法関係を表す機能が強いので、ヴォイスによって格助詞の変更が起きることがる。
佐藤が鈴木を山本先生に紹介した。 (1)
鈴木が佐藤から山本先生に紹介された。 (2)
山本先生が佐藤に鈴木を紹介された。 (3)
まとめ
日本語における助詞とは日本語の特別な品詞の一つであり、他言語の後置詞、
接続詞に当たる。助詞は様々な種類がある。例えば、格助詞、並立助詞、係助詞、
副助詞、接続助詞、終助詞、間投助詞などである。日本語においては、名詞の後 ろに付く「が」「を」「に」「へ」「で」「から」など一定の独立した形式を
「格助詞」と呼ぶ。一般に、一つの名詞につく格助詞は一つである。複数の格助 詞がつくことは基本的にない。格助詞の中には述語や目的語といった文法関係を 表すという文法的な性質が強いものと、起点や手段といった意味関係を表すとい う意味的な性質が強いものである。文法的な性質が強いものを文法格といい、意 味的な性質が強いものを意味格という。名詞が主題となったり名詞を修飾したり する場合には、格助詞に「は」や「の」がつくことがある。一般的に、文法格に は「は」や「の」をつけることはできず、その場合には格助詞を消さなければな らないが、意味格には「は」や「の」をつけることができる。また、話し言葉に おいては、格助詞の省略がよく見られて、注意すべき点がある。全ての格助詞が 話し言葉において省略されるわけではない。「格助詞+動詞のテ形/連用形」
「格助詞+名詞+格助詞」「「の」+名詞+格助詞」といった形式が固定化して、
格助詞相当の機能を持ったものを複合格助詞という。「によって」「といっしょに」「のために」などは複合格助詞である。
第2章 格助詞の用法及び述語との関係
本章では、先行研究に基づいて、基本的な用法と述語と格助詞の関係を具体 的に分析する。又、日本語の述語や格助詞と述語の関係についても述べる。文の 述語によって、格助詞が違う。格助詞は「が」「を」「に」「へ」「で」「から」
「より」「まで」「と」である。
2.1.格助詞の基本的用法
名詞の格は、格助詞「が」「を」「に」「へ」「で」「から」「より」「ま で」「と」によって表される。
佐藤が田中を山本先生に紹介した。
鈴木は新幹線で大阪から東京へ出張した。
大学卒業まで弟と同じ部屋を使っていた。
父より伝言を言づかっております。
宮島達夫(2003)は『現代日本語文法②』の第 3 部を通し、格助詞と構文の 概観を述べた。そして、格助詞の用法も言及した。格助詞によって表される名詞 と述語との意味関係には、主体、対象、相手、場所、着点、起点、経過域、手段、
起因、根拠、時などがある。格助詞と、その格助詞が表す意味関係の対忚は、次 のとおりである。
表 1 - 格助詞と用法の対忚 格
動きの主体
子供たちが公園で遊ぶ。(意志動作の主体)
弟が女の子から花束をもらった。(受身的動作 の主体)
雤が降る。(自然現象の主体)
洪水で橋が壊れる。(変化の主体)
田中が弟の成功を心から喜んだ。(心的活動の 主体)
状態の主体
このホテルには有名なレストランがある。(存 在の主体)
この子が専門書が読めるはずがない。(能力の
君が悲しい時は、私も悲しい。(心的状態の主 体)
今朝は空がとてもきれいだ。(性質の主体)
このマークが進入禁止を表す。(関係の主体)
同定関係の主体 あの眼鏡をかけた人が田中さんだ。
心的状態の対象 恩師の死が悲しい。
能力の対象 この子は逆上がりができる。
所有の対象 私には大きな夢がある。
変化の対象
ハンマーで氷を砕いた。(形状変化の対象)
花を鉢から花壇に移した。(位置変化の対象)
植木を囲った。(状況変化の対象)
小説を書いた。(産出の対象)
動作の対象
太鼓をたたく。(働きかけの対象)
市町村合併問題を議論する。(言語活動の対 象)
心的活動の対象 友人との約束をすっかり忘れていた。
起点 移動の起点 昨日は8時に家を出た。
空間的な経過域 川を泳いで渡った。
時間的な経過域 お正月を実家で過ごした。
着点 移動の着点 子どもが学校に行く。(到達点)
糸くずが服につく。(接触点)
変化の結果 信号が青に変わる。
動作の相手 隣の人に話しかける。
授与の相手 おばあさんが孫に絵本をやる。
受身的動作の相手 犯人が警察に捕まった。
基準としての相手 体格が大人にまさる。
場所 存在の場所 机の上に本がある。
出現の場所 あごに髭が生える。
感情・感覚の起因 職員の横柄な態度に腹を立てる。
継続的状態の起因 潮風に帄が揺れていた。
主体 状態の主体
私には大きな夢がある。(所有の主体)
この子に専門書が読めるはずがない。(能力の 主体)
私には弟の成功が心から嬉しい。(心的状態の 主体)
対象 動作の対象 親にさからう。
心的活動の対象 先輩にあこがれる。
手段 内容物 新入生の顔は希望にあふれている。
付着物 全身が泤にまみれる。
時 時点 1時に事務所に来てください。(時名詞)
午前中に用事を済ませた。(期間名詞)
領域 認識の成り立つ領
私には、山本さんの意見は刺激的だった。
目的 移動の目的 母が買い物に行く。
役割 名目 お礼に手紙を書く。
割合 1週間に2日は酒を飲んでいる。
へ 着点 移動の方向 船が港へ向かう。
場所 動きの場所 庭で犬が吠えている。
道具 はさみで紙を切る。
方法 遠近法で図を描く。
材料 千代紙で鶴を折る。
構成要素 委員会は5人のメンバーで構成される。
内容物 会場が人でいっぱいになる。
付着物 服がホコリで汚れる。
変化の原因 強い風で看板が倒れた。
行動の理由 急用で家へ帰った。
感情・感覚の起因 友人とのことで悩んでいる。
判断の根拠 隣の部屋の人物が誰なのか、甲高い声でわかっ
主体 動きの主体 私と佐藤でその問題に取り組んだ。
限界 範囲の上限 先着30名で締め切る。
領域 評価の成り立つ領
富士山が日本で一番高い山だ。
目的 動作の目的 観光で京都を訪れた。
様態 動きの様態 裸足で歩く。
移動の起点 子どもたちが教室から出てきた。
方向の起点 ここから富士山がよく見える。
範囲の始点 本を 10 ページから読み始める。
変化前の状態 信号が青から黄に変わる。
主体 動きの主体 私から集合時間を連絡しておきます。
出来事の原因 たばこの火の不始末から火事になった。
判断の根拠 隣の部屋の人物が誰なのか、甲高い声からわか
域 空間的な経過域 虫は窓から出ていった。
手段 構成要素 国会は衆議院と参議院から成り立っている。
移動の起点 遠方より友来たる。
方向の起点 これは東京タワーより撮影した富士山の写真で
範囲の始点 本を 10 ページより読みはじめる。
変化前の状態 書類の提出期限が2月末より3月末に変更され
で 着点 範囲の終点 子どもが学校まで自転車で通う。
共同動作の相手 友達と喫茶店でコーヒーを飲んだ。
相互動作の相手 弟とけんかをする。
基準としての相手 弟と趣味が違う。
着点 変化の結果 氷が溶けて水となる。
内容 あの方は恩師と呼べる。
2.2.述語と格助詞の関係
伝統文法では、述語はある節の要素のうち、主語でない部分のことである。
主語以外の名詞句は述語に含まれる。
現代言語学では、節の中心となる動詞とそれを修飾する部分のことである。
名詞句は述語に含まれない。
述語が一つである文のことを単文といい、述語が二つ以上存在する文を複文という。複文においてそれぞれの述語を中心としたまとまりが節である。
格助詞の用法及び述語との関係
主体を表す格助詞
述語が表す動きを引き起こすものや、述語が表す状態の持ち主となるものを 主体という。主体は主として「が」によって表される。「に」「で」「から」
「の」も主体を表すことがある。
「が」は、述語で表される事態に対して、もっとも基本的な役割を担う名詞 につく格助詞である。述語で表される事態に対する、もっとも基本的な役割とは 主体である場合が多い。そのため、「が」は主体を表す格助詞の中で中心的なも のとなっている。
述語が動きと状態に大別されるのに対忚して、主体も動きの主体と状態の主 体に分かれる。さらに、これとは別に、名詞述語文において、名詞と名詞を同定 する同定関係の主体がある。
動きの主体 動きは動詞述語によって表される。意志的な動きであるか否か、及び主体に 変化が生じるか否かによって、動きの主体には、意志動作の主体、受身的動作の 主体、自然現象の主体、変化の主体、心的活動の主体といったものがある。
[意志動作の主体]
意志動作の主体では、主体に状態変化が生じないのが普通である。
子どもたちが公園で遊ぶ。
居間で父が新聞を読む。
犬がえさを食べる。
意志動作を表す動作の中には、主体が対象に働きかけることによって、その 対象に状態変化を引き起こす物がある。
弟がプラモデルを壊した。
鈴木が空き缶をつぶした。
対象に働きかけることによって、主体自体の状態が変わるという、再帰的な 動作の主体もある。これは、意志動作の主体と変化の主体の両方の性質を持つも のである。
子どもが赤い帽子をかぶっている。
対象に働きかける意志動作の主体として、無情物が現れることがある。この ようなガ格助詞は、原因の意志に近い。書き言葉に用いられるやや翻訳的な表現 である。
風が戸を開けた。
[受身的動作の主体]
自然現象の主体とは、発生したり展開したり終結したりする自然現象の主体 である。
あかあかと火が燃える。
[変化の主体]
次の例は、形状や状況が変化する主体である。
洪水で橋が壊れる。
部屋が散らかる。
姿勢が変化することを表す主体もある。
生徒がみんな立つ
佐藤さんがうつむく。
変化の主体の中には、述語で表される動きによって、存在する位置が変化す るものもある。移動動作のガ格名詞がこれである。
私は、田中がここに来ることを知らなかった。
ここではみんなの邪魔になるから、我々が隣の部屋に移ろう。
形状や状況の変化は、無意志的な動きである。一方、姿勢の変化や位置変化 は、意志的な動きであることが多い。
[心的活動の主体]
思考活動を表す動詞には「思う」「考える」「忘れる」「知る」など、感情 の動きを表す動詞には「喜ぶ」「悲しむ」「愛する」などがある。私的活動の主 体は、基本的に有情物である。
鈴木が財布を忘れたので、お金を貸してやった。
田中が弟の成功を心から喜んでいるのは間違いない。
状態の主体
状態は主に形容詞・名詞述語によって表されるが、一部の動詞も状態を表す。
状態の主体には、存在の主体、能力の主体、心的状態の主体、性質の主体などが ある。なお、状態の主体は、存在動詞「いる」の主体を除いて、無意志的な主体 である。
[存在の主体]
「ある」「いる」「存在する」「ない」のような述語が存在の主体をとる。
典型的には物や人である。
このホテルには有名なレストランがある。
この辺りには郵便局がなくて、とても不便だ。
出来事や抽象的な事態の存在を表す場合もある。
今度の日曜日に運動会がある。
現在の日本社会には多くの矛盾が存在する。
「多い」「尐ない」といった量を表す述語の主体も、存在の主体に近い。
日曜日の公園には親子連れが多かった。
この街には緑が尐ない。
[能力の主体]
能力を表す「できる」や可能動詞、「見える」「聞こえる」「わかる」「理 解する」などの知覚状態を表す動詞が能力の主体をとる。
この子が専門書が読めるはずがない。 (1)
私ができることが、君ができないわけがない。
最後例の学生が黒板の字が見えないようなので、教室を変更した。(2)
これらの述語では、能力の及ぶ対象((1)の「難しい本」、(2)の「黒 板の字」)も「が」で表される。
能力の主体は、「に」によって表すこともできる。
[心的状態の主体]
「好きだ」「欲しい」「心配だ」などの感情形容詞が心的状態の主体をとる。
君がコーヒーが好きなことはよく知っている。 (3)
私がにんじんが嫌いなのは臭いのせいだ。 (4)
対象を表す格助詞
述語が表す動きや認識などに対し、その動きの影響を受けるもの、認識が向 けられるものを対象という。対象は主として「を」によって表される。「が」
「に」も対象を表すことがある。
対象を主として表すのは「を」である。「を」は、変化の対象、動作の対象、
心的活動の対象などを表す。
変化の対象 変化の対象には、形状変化の対象、位置変化の対象、状況変化の対象、産出 の対象がある。
[形状変化の対象]
「切る」「ちぎる」「割る」などは、動作によって分割される対象を取る。
ハンマーで氷を砕いた。
パンをちぎって、小鳥にやる。
「曲げる」「たたむ」「まぜる」などは、動作によって変形される対象をとる。
タオルをたたんで、かばんに入れた。
麺の生地をのばした。
「消す」「治す」「解く」などは、動作によって消滅する対象をとる。
病気を治す。
なぞを解く。
[位置変化の対象]
「移す」「降ろす」「倒す」などの動作では、対象の空間的位置に変化が生 じる。
花を鉢から花壇に移した。
荷物をトラックに積んだ。
「そろえる」「たばねる」「集める」などの動作では、複数の対象相互の位 置かんけいに変化が生じる。
箸をまっすぐそろえた。
座布団を何枚も重ねる。
[状況変化の対象]
「囲う」「守る」などの動詞が状況変化の対象をとる。
植木を囲った。 (1)
建物をライトで照らした。 (2)
(1)の例では、周りに囲いを配置するで「植木」をとりまく状況に変化が生じる。(2)は「照らす」ことで「建物」の見え方が変化する。いずれも広い意味で対象が置かれた状況の変化である。
「産出の対象]
一般的な対象と異なり、産出の対象は動作に先立って存在しない。
小説を書いた。
雪だるまを作ろう。
産出の対象をとる動詞には、他に「(家を)建てる」「(ご飯を)炊く」
「(湯を)沸かす」「(卵を)産む」などがある。
動作の対象 動作の対象には、働きかけの対象と言語活動の対象がある。
[働きかけの対象]
働きかけの強さには程度差がある。
「たたく」や「蹴る」といった動詞は、対象に強い力を加えるが、対象は変化 しない。
太鼓をたたく。
サッカーボールを蹴る。
「買う」や「追う」といった動詞は、対象に対する直接的な働きかけがほとん ど感じられない。
東京までの切符を買う。
オオカミが獲物を追う。
[言語活動の対象]
「議論する」「報告する」「話す」などの動詞が、言語活動の対象をとる。
市町村合併問題を議論する。
これから事件の経緯を報告します。
言語活動において取り扱われる対象は、事柄的なものである。事柄的ではな い名詞をとる場合には、名詞に「のこと」をつける。
亡くなったおじいさんのことを語りあった。
心的活動の対象 「見る」「聞く」「触る」など、知覚活動を表す動詞は心的活動の対象をとる。
映画を見る。
「思う」「考える」「忘れる」「知る」などの思考活動を表す動詞も同様であ る。
故郷のことを考えた。
友人との約束をすっかり忘れていた。
「喜ぶ」「愛する」「好む」などの感情の動きを表す動詞も心的活動の対象をとる。
この曲を愛している。
述語が状態性のものである場合には、「が」が対象を表すことがある。「が」
の対象としての意味には、心的状態の対象、能力の対象、所有の対象がある。
心的状態の対象 「嬉しい」「悲しい」「欲しい」「心配な」のような感情を表す形容詞の対象 は、「が」で表される。
恩師の死が悲しい。
新しいパソコンが欲しい。
「見える」「聞こえる」「わかる」のような知覚を状態的に表す動詞の対象も、
「が」で表される。
黒板の字が見えない。
変な音が聞こえるぞ。
「好きな」「嫌いな」「欲しい」では、対象を「を」で表す例も見られるが、
あまり一般的ではない。ただし、次の例のように、これらの述語が複文の従属節 内で用いられている場合や、「になる」が続く場合などには、「を」を用いるこ ともある。この場合「が」も自然である。
私が北海道を好きな理由は、雄大な自然にあこがれるからだ。
新しいパソコンを欲しくなって、カタログを集めた。
話し手の願望を表す「たい」を述語とする文も対象を「が」で表すことがあ る。
コーヒーが飲みたい。
成人式では着物が着たい。
これらの文の対象は「を」で表すこともできる。
コーヒーを飲みたい。
成人式では着物を着たい。
能力の対象 述語が主体のもつ能力を表すものである場合、能力の対象が「が」で表され る。
私はギリシャ語の文献が読める。
この子はまだ1人で服が着られない。
相手を表す格助詞
述語で表される事態の成立に関与する、主体以外のもう一方の有情物を相手 という。相手は主として「に」「と」によって表される。
相手には、事態の成立になくてはならない必須の場合と、なくても事態が成 立しうる任意の場合とがある。
「に」は相手を表す中心的な格助詞であり、方向性がある動作の相手を表す。
「に」の相手としての意味には、動作の相手、授与の相手、受身的動作の相手、
基準としての相手がある。
[動作の相手]
「話しかける」「電話をかける」「会う」などの動詞では、動作の相手が
「に」で表される。
隣の人に話しかける。
犬が子どもにかみついた。
[授与の相手]
「やる」「贈る」「渡す」などの動詞では、授与の相手が「に」で表される。
おばあさんが孫に絵本をやる。
佐藤さんに本を返した。
この時、「を」で表される対象は、ガ格助詞からニ格助詞に向かって移動す る。授受の相手を表す「に」は、移動の着点としての意味に近い。
「教える」「伝える」「知らせる」など、情報のやりとりを表す動詞も、情 報の受け手としての授与の相手を「に」で表す。
母親は子供に駅までの道順を教えた。
子供が母親に家庭訪問の日程を伝えた。
「受身的動作の相手」
「捕まる」「教わる」など動詞では、受身的動作の相手が「に」で表される。
犯人が警察に捕まった。
父にこづかいをもらった。
受身的動作の相手は主体に近い意味を持っている。そのため、「が」を用い て同じ事態を表現できるものもある。
警察が犯人を捕まえる。
田中先生が数学の公式を教えた。
「もらう」「教わる」「聞く」では、「に」を起点の「から」で置き換える こともできる。
父からこづかいをもらった。
数学の公式を田中先生から教わる。
「基準としての相手」
「まさる」「準ずる」「务る」のように基準を必要とする動詞の基準として の相手は「に」で表される。
体格が大人にまさる。
「と」は、「に」と並んで、相手を表す格助詞である。「に」は方向性があ る動作の相手を表すのに対して、「と」は対等の関係で主体を関わる相手を表す。
「と」の相手としての意味には、共同動作の相手、相互動作の相手、基準としての相手がある。
「共同動作の相手」
共同動作の相手は、述語が表す事態の成立にとって任意の要素である。次の
(1)(2)のように単独でできる行為をともにする場合もあれば、(3)のよ うに複数で行うのが一般的な行為をともにする場合もある。
友達と喫茶店でコーヒーを飲んだ。 (1)
友達と映画を見た。 (2)
友達とグラウンドでサッカーをした。 (3)
共同動作の相手は、「と」の代わりに「と一緒に」「とともに」を用いても 表せる。
子どもと一緒に散歩をした。
社長とともに挨拶にまわった。
「相互動作の相手」
相互動作の相手は、述語が表す事態が成立するためになくてはならない必須 の要素である。「会う」「付き合う」「結婚する」「相談する」「ぶつかる」な どといった動詞を述語とする文で現れる。
選挙で弟と戦った。
駅で恋人と別れた。
相互動作の相手を表す場合には、「と」の代わりに「と一緒に」「とともに」
を用いることができない。「と一緒に」「とともに」を用いると、共同動作の相 手として解釈される。次の例は、弟とともに対立候補を相手に選挙で争った、と いう意味になる。
選挙で弟と一緒に戦った。
「基準としての相手」
「違う」「似る」「間違える」などの動詞や、「同じだ」「そっくりだ」
「近い」などの形容詞で表される事態で現れる。
弟と趣味が違う。
電話に出た姉を母と間違えた。
顔が父親とそっくりだ。
場所を表す格助詞
述語で表される事態が成立する位置を場所という。場所は主として「に」と
「で」によって表される。
「に」の場所としての意味には、存在の場所と出現の場所がある。
「存在の場所」
「ある」「いる」「存在する」「ない」のような存在を表す述語の場合、主 体の存在する場所は「に」で表される。
教室に学生がいる。
この部屋には家具がない。
「多い」「尐ない」といった分量の多寡を表す述語の場合にも、「に」は主 体が存在する場所を表す。
この町には公園が多い。
ゴミ箱にゴミがいっぱいだ。
動きを表す動詞に「ている」「てある」をつけて事物の存在を含意する場合 にも、「に」で存在の場所が表される。
この町には大きな川が流れている。
玄関に荷物が置いてある。
「住む」「残る」「泊まる」など、存在状態に主眼のある動詞も、「に」で 存在の場所が表される。
教室に学生が残る。
田中さんは友達の家に泊まった。
「残す」「泊まる」のような存在を含意する地動詞も、「に」は「を」で表 される対象の存在の場所を表す。
家に子どもを残してきた。
友達を家に泊める。
「持つ」「所有する」「かかえる」「いだく」「飼う」などの所有を表す地 動詞も、「に」は「を」で表される対象の存在の場所を表す。
犯人はポケットにナイフを隠し持っていた。
花嫁は両手に花束を抱えている。
「見える」「見つける」などの存在物の認識的な把握を表す動詞では、「に」
は「が」や「を」で表される対象の存在の場所を表す。
山のふもとに民家が1軒見える。
古いアルバムに子どもの頃の写真を見つける。
「出現の場所」
次の例で、(1)(3)の自動詞表現では、「に」はガ格名詞の出現の場所 を表し、(2)(4)の他動詞では、「に」はヲ格名詞の出現の場所を表してい る。
あごに髭が生える。 (1)
あごに髭を生やす。 (2)
目に涙が浮かぶ。 (3)
目に涙を浮かべる。 (4)
ある場所に事物が出現し、さらにその場所の範囲内で動きを展開しつつ存在 する場合も、「に」を用いることができる。
夜空に星が光っている。
中高年の間に健康食品ブームが起きている。
「で」は動きの場所を表す。動きの場所とは、動作を行うことを表す述語や 出来事の発生を意味する述語に対して、その動作・出来事の成立する位置である。
庭で犬が吠えている。
裏山で家事が起きた。
「ある」が、出来事を表す名詞を主体にとって、出来事の発生を表すことが ある。この場合の場所は「で」で表す。
3時からこの部屋で会議がある。
日曜日に小学校で運動会があった。
着点を表す格助詞
事物の存在する位置が変化する移動を伴う動作において、その移動が終わる位 置を着点という。具体的な空間移動ではなく、事物の状態が時間的経過の末に変 化する場合も、その変化後の状態は状態変化の到達点であり、着点の一種である。
着点は主として「に」によって表される。また、「と」「へ」「へと」「まで」
も着点を表すことがある。
「に」は着点を表す最も基本的な格助詞である。「に」の着点としての意味 には、移動の着点と変化の結果がある。
「移動の着点」
述語が「行く」「来る」「着く」「入る」「落ちる」「向かう」などの位置 変化を表す自動詞である場合、「に」は主体の移動の到達点を表す。
子どもが学校に行く。
電車が駅に着く。
船が港に向かう。
述語が「送る」「運ぶ」「出す」「落とす」「捨てる」などの位置変化を表 す他動詞である場合、「に」は対象の移動の到達点を表す。
子どもが小石を谷底に落とした。
誰かが書類をゴミ箱に捨ててしまった。
「歩く」「走る」「泳ぐ」のような移動を伴う動作を表す自動詞は、単独で は「に」で移動の到達点を表すことはないが、「ていく」「てくる」という動作 の方向性を示す補助動詞構文をとった場合に、「に」が主体の移動の到達点を表 すようになる。
*男がバス亭に歩く。
男がバス亭に歩いていく。
移動の着点を表す名詞は場所的な性質をもつものである。場所性をもたない 名詞は、「のところ」「の方」をつけて場所的にして「に」を伴い、移動の到達 点を表す。
赤ん坊が母親のところに這ってくる。
ボールがピッチャーの方に飛んでくる。
到達点は、空間的に位置づけられるものにとどまらない。時間や記録など、
数量化が可能なものについての空間的ではない位置づけに関しても、「に」によ って到達点が表される。
話は5年前にさかのぼる。
海面の温度はとうとう 30 度に達した。
述語が、「つく」「触る」「ぶつかる」「あたる」などの接触を意味する自 動詞である場合、「に」は主体の接触点を表す。
糸くずが服につく。
髪の毛が肩に触る。
「もたれる」「座る」「乗る」などの述語では、「に」は、移動の伴う動作 の結果、主体がある空間的位置にとどまった状態で存在することを表す。
田中さんは気分が悪くなり、壁にもたれかかった。
昨日の強風で大木が地面に倒れた。
述語が、「立てる」「貼る」「植える」「ぶつける」「書く」「置く」「あ てる」などの他動詞である場合、「に」は対象の接触点を表す。
お母さんがケーキにろうそくを立てる。
私が封筒に切手を貼りました。
「変化の結果」
「に」には、変化の結果(変化後の状態)を表す用法がある。変化の結果は、
変化の前から後へという方向性がある点で、着点的な意味と関わる。
「変わる」「決まる」などの自動詞の場合、「に」は主体の変化後の状態を 表す。
信号が青に変わる。
窓口の担当者が男の人から女の人になる。
次のような、変化の前後が想定されないものも、変化の結果を表す「に」の 用法の延長線上にある。
もう5時になる(=もう5時だ)。
今日はいい天気になったな(=今日はいい天気だな)。
「変える」「決める」「育てる」「する」などの他動詞の場合、「に」は対 象の変化後の状態を表す。
通勤手段をバスに変える。
委員長を田中さんに決める。
変化の結果は、「と」で表すこともできる。変化の結果を表す「と」は、
「に」に比べて、古い文体もしくは書きことば的な表現である。
氷が溶けて水となる。
米をすりつぶして粉とする。
なお、次のような、動作の結果生じた状態を比喩的に表すのに用いられる
「と」も、変化の結果を表す「と」の用法の一つである。これらは、「に」では 表すことができない。
机に本を山と積む(=机に本を積んで山のような状態になる)。
海の藻くずと消える(=海の藻くずのような状態になって消える)。
起点を表す格助詞
具体的・抽象的な移動を伴う動作において、その移動の始まる位置を起点と いう。起点は主として「から」によって表される。「より」「を」も起点を表す ことがある。
「から」は起点を表すもっとも基本的な格助詞である。「から」の起点としての意味には、移動の起点、方向の起点、範囲の始点、変化前の状態がある。
「移動の起点」
述語が「来る」「出る」「届く」などの位置変化を表す自動詞の場合、「か ら」は主体の移動の起点を表す。
東京から親戚の子供が遊びに来た。
実家から米が届いた。
「音」「におい」「光」に関わる動詞が方向性を含意することがある。これ らも「から」で起点を表すことができる。
隣の部屋から音楽が聞こえてきた。
台所からいいにおいがする。
述語が「出す」「もらう」「預かる」などの対象移動を表す他動詞の場合、
「から」は対象の移動の起点を表す。
財布から千円札を出した。
例の書類はこちらから送っておきます。
「教わる」「習う」「聞く」など、知識・情報が移動するととらえられる動 詞の場合、「から」はその知識・情報の出どころを表す。
佐藤先生から漢字の書き順を教わった。
社長から今度のプロジェクトの推進責任者を言いつかった。
移動を伴わない動作であっても、受身と似た意味を持つ定型的な表現では、
その動作を行った人物が「から」で起点として表示される。
田中は友達から殴打を受けた。
先発投手は打者 10 人からホームランを浴びた。
「話す」「伝える」のような伝達動詞では、起点的な意味をもつ「から」が 主体を表す場合がある。
田中君にはあなたから話しておいてくださいね。
「方向の起点」
「から」は、視線、心理など、方向性のある動作の起点を表すことがある。
ここから富士山がよく見える。
ここからあなたの成功を祈っています。
この用法の「から」の文には、対忚する着点を表す表現は現れない。
また、「から」は長さのあるものがのびる方向の起点を表すことがある。
袖から白い腕がのびていた。
カメラを肩からつりさげる。
「範囲の始点」
「から〜まで」は、状態や動作の持続する範囲を表す。「から」は範囲の始点
学校から家まで約8キロある。
朝から晩まで働く。
「歩く」「走る」「飛ぶ」「泳ぐ」のような動作を表す自動詞は、動作の着点 を表す「まで」と一緒に用いられた場合に、起点を「から」で表す。
川の向こう岸からこちら岸まで泳いだ。
ある段階を始点とした動作を表す場合、その段階を「から」で表す。この時、
「から」はその動作を行う段階的範囲の始点を表している。
本を10ページから読み始めた。
途中から映画を見た。
次のように、すでに他の格関係が存在する名詞に「から」がつくことがある。
(1)の「勉強」、(2)の「できるところ」はヲ格名詞、(3)の「君」はガ 格名詞である。
昨日は漢字の勉強から始めた。 (1)
できるところからやってください。 (2)
君から出発してください。 (3)
このような「から」は、動作に順序があることを表す。文中の名詞以外の名 詞を想定するという点で、とりたて助詞に近い性質を持つ。
「変化前の状態」
ある状態からある状態に変化する場合の変化前の状態も「から」で表す。
信号が青から黄に変わる。
窓口の担当が男の人から女の人になる。
実際には、変化前の状態は表されることが尐なく、変化の結果が単独で表 されることが多い。変化前の状態が、原料の意味になることもある。
米から酒を作る。(原料)
「より」は起点を表す「から」とほぼ同じ意味を持つ。やや古い表現であり、
書きことば的である。
遠方より友来たる。(移動の起点)
これは鈴木氏より聞いた話である。(移動の起点)
これは東京タワーより撮影した富士山の写真である。(方向の起点)
6課より8課までを試験範囲とする。(範囲の始点)
書類の提出期限が2月末より3月末に変更された。(変化前の状態)
範囲の始点の用法については、やや不自然に感じられるものもある。
?朝より晩まで働く。
「を」は、「出る」「離れる」など起点に着目する主体移動を表す動詞とと もに用いられた場合、起点を表す用法を持つ。
昨日は8時に家を出た。
私は東京を離れて、横浜に向かった。
「を」がつく名詞は、主体がいったんは存在している場所である。従って、
主体がその中に入れないような名詞には「を」はつかない。
*ドアに鍵がかかっていて出られないので、窓を出た。
「学校」のような名詞について、具体的な移動ではなく、卒業という意味を 表すこともある。
私が高校を出たのは不況のまっただ中だった。
2.2.7 経過域を表す格助詞
手段を表す格助詞
動作や出来事、状態の成立のために用いられる物や方法を手段という。手段 は主として「で」によって表される。「に」も内容物や付着物といった、非典型 的な手段の用法をもつ。
「で」は、手段を表す最も基本的な格助詞である。「で」の手段としての意 味には、道具、方法、材料、構成要素、内容物、付着物がある。道具や方法は手 段の典型的な意味であり、材料、構成要素、内容物、付着物は手段の非典型的な 意味である。
典型的には、「で」のつく名詞は具体的な物を表し、述語は意志的な動作を 表す。
ナイフでチーズを切る。
報告書で真実を明らかにする。
「で」のつく名詞が身体部分である場合や、抽象的なものである場合、典型 的な道具としての意味からは尐しずれてくる。
手で空き缶をつぶす。
言葉で相手を責める。
この場合、次の例のような、述語の動作のあり方を表す様態としての意味に近 くなる。
裸足で歩く。
大声で叫ぶ。
ただし、道具の場合は「を使って」「を用いて」で言い換えられるのに対し、
様態の場合はそれができない。
ナイフ{で/を使って}チーズを切る。(道具)
手{で/を使って}空き缶をつぶす。(道具)
裸足{で/*を使って}歩く。(様態)
大声{で/*を使って}叫ぶ。(様態)
また、述語が無意志的な動作の場合、「で」の道具としての意味が希薄にな り、起因の意味になる。
うっかり紙で指を切ってしまった。(起因)
「で」は方法を表すこともある。典型的には、「で」のつく名詞は、方法・
方式、形式、作戦、操作モード、(狭義の)手段など、ある程度抽象的な意味を 表し、述語は意志的な動作を表す。
遠近法で図を描く。
詩で表現する。
同じ「手」でも、具体的な「手」の場合は道具の意味であり、抽象的な「手」
の場合は方法の意味になる。
汚い手で食べ物をつまんではいけない。(道具=身体部分)
汚い手でライバルを追い落とす。(方法)
なお、方法の「で」の場合、「を使って」「を用いて」で言い換えられるか どうかは一様ではない。
遠近法{で/を使って}図を描く。
投票{で/?を使って}議長を選ぶ。
典型的には、「で」のつく名詞は材料となる物を表し、述語は生産・生成を 表す。
千代紙で鶴を折る。
ありあわせの材料で昼食を作る。
また、述語が「できている」といった状態を表す形になると、物の性質を材 料の面から述べる文になる。
この建物はコンクリートと鉄でできている。
なお、材料の「で」は、材料の質自体は変化しないという点で、物の生成の 起点として「から」で表される原料とは異なる。
千代紙{で/*から}鶴を折る。(材料)
米{?で/から}酒を作る。(原料)
典型的には、「で」のつく名詞は構成要素・要員となる物や人などを表し、
述語は物質・組織などの組成や構成の意味をもつ。また、述語はアスペクト的に は状態や恒常的真理を表すのが普通である。
委員会は5人のメンバーで構成される。
人間の体は7割が水でできている。
構成要素の「で」は材料の「で」と意味的にかなり近いが、構成要素の場合 は「から」で言い換えられることがあるという点が、材料と異なる。
委員会は5人のメンバー{で/から}構成される。(構成要素)
人間の体は7割が水{で/から}できている。(構成要素)
この建物はコンクリートと鉄{で/*から}できている。(材料)
また、構成要素の「で」が用いられた文は、同じ名詞に「が」がついて主語 になった文とほぼ同じ意味を表す。この点で、材料とも起点としての原料とも異 なる。
5人のメンバーが委員会を構成される。(構成要素)
水が人間の体の7割をなしている。(構成要素)
?コンクリートと鉄がこの建物をなしている。(材料)
*米が酒をなしている。(原料)
なお、構成要素の「で」をもつ文の述語が主体的な意味をもつ場合は、「で」
は構成要素であると同時に主体としての意味も帯びる。
5人のメンバーでチームを作る。(構成要素・主体)
典型的には、主体は器・容器としてとらえられる物であり、「で」のつく名 詞は物質、感情などを表す名詞である。述語は「満たされる」のような充満を意 味する。
会場が人でいっぱいになる。
(心が)幸せな気分で満たされる。
起因・根拠を表す格助詞
その事態が起きることによって、結果として述語で表される事態が引き起こ されることを起因という。起因は主として「で」によって表される。また、「に」
「から」も起因を表すことがある。
「で」は、起因を表す最も基本的な格助詞である。「で」の起因・根拠とし ての意味には、変化の原因、行動の理由、感情・感覚の起因、判断の根拠がある。
「変化の原因」
次の例では、ある事態を表す名詞に「で」がついて、述語によって表される 別の事態を引き起こすことを表す。
強い風で看板が倒れた。
大きな音で目が覚めた。
変化の原因となる出来事を「〜こと」によって表すこともある。
不良債権を整理したことで日本経済はようやく回復の兆しを見せた。
「行動の理由」
ある事物が存在することによって、何らかの行動が起きるとされる場合、行 動の理由であるその事物は「で」で表される。
急用で家へ帰った。
来週は、出張で家を3日間あける予定です。
この場合、述語は意志動詞であるが、意志性は弱く、過去形をとって、そう せざるを得なかったという事実を表すことが多い。また過去形でない場合でも意 志を表すモダリティをとりにくいなど、無意志的事態に類似した制限をもつ。
*急用で家へ帰ろう。
*風邪で学校を休むつもりです。
これは原因を表すテ形による節の特徴と同じである。
風邪をひいて学校を{休んだ/*休もう}。
「で」を用いた場合と、文体的な差は多尐あるが、特に意味の差はない。
「感情・感覚の起因」
感情・感覚を表す述語に対して、「で」はその感情や感覚を引き起こす原因 となった出来事を表す。
看病でへとへとになった。
友人とのことで悩んでいる。
「判断の根拠」
判断を表す述語とともに用いられた場合、「で」は判断の根拠を表す。
その人物の職業は、身なりで判断できた。
隣の部屋の人物がだれなのか、甲高い声でわかった。
このような「で」は、「から」で言い換えられる場合もある。
隣の部屋の人物がだれなのか、甲高い声からわかった。
「に」は、述語が感情・感覚を表す場合、その感情・感覚の生じる起因を表 すほか、述語が継続する状態を表す場合、その原因となる自然現象を表す。「で」
が任意の成分であるのに対して、「に」は動詞にとって必須の成分である。「に」
の起因としての意味には、感情・感覚の起因を継続的状態の原因がある。
「感情・感覚の起因」
「に」は感情・感覚など精神的・生理的な状態や変化を表す述語とともに用 いられ、その状態あるいは変化をもたらす起因を表す。
恋人の何気ない優しさに心をいやされた。
鳥の声に目を覚ます。
感情・感覚をもたらした出来事を「〜こと」によって表すことがある。
しかられたことに腹を立てた。
「継続的状態の起因」
述語が継続する自然現象を表す場合、「に」はその現象の起因を表す。
潮風に帄が揺れていた。
雤に煙る道路で事故は起きた。
継続的状態の起因を表す「に」は、変化の原因の「で」とほぼ同じ意味をも つ。
潮風で帄が揺れていた。
ただし、次の例のように、他動詞を述語とする場合、意図的に「潮風」を道 具として用いる場合を除いて、「で」で表すことはできない。
船は潮風{に/*で}帄が揺れていた。
「から」は起点を表す格助詞であるが、出来事や思考活動の起点を原因や根 拠としてとらえられる場合には、起因的な意味をもつ。「から」の起因・根拠と しての意味には、出来事の原因と判断の根拠がある。
「出来事の原因」
一連の出来事の発端となる事柄に「から」がついて、その出来事の原因を表 すことがある。
タバコの火の不始末から火事になった。
過労から体をこわしてしまった。
「から」で表される原因は、述語で表される出来事の発端である。例えば、
そのほかの意味の格助詞
「が」は、述語で表される事態に対して、もっとも基本的な役割を担う名詞 につく格助詞である。述語で表される事態に対する、もっとも基本的な役割とは 主体である場合が多い。そのため、「が」は主体を表す格助詞の中で中心的なも のとなっている。
述語が動きと状態に大別されるのに対忚して、主体も動きの主体と状態の主 体に分かれる。さらに、これとは別に、名詞述語文において、名詞と名詞を同定 する同定関係の主体がある。
動きの主体 動きは動詞述語によって表される。意志的な動きであるか否か、及び主体に 変化が生じるか否かによって、動きの主体には、意志動作の主体、受身的動作の 主体、自然現象の主体、変化の主体、心的活動の主体といったものがある。
[意志動作の主体]
意志動作の主体では、主体に状態変化が生じないのが普通である。
子どもたちが公園で遊ぶ。
居間で父が新聞を読む。
犬がえさを食べる。
意志動作を表す動作の中には、主体が対象に働きかけることによって、その 対象に状態変化を引き起こす物がある。
弟がプラモデルを壊した。
鈴木が空き缶をつぶした。
対象に働きかけることによって、主体自体の状態が変わるという、再帰的な 動作の主体もある。これは、意志動作の主体と変化の主体の両方の性質を持つも のである。
子どもが赤い帽子をかぶっている。
対象に働きかける意志動作の主体として、無情物が現れることがある。この ようなガ格助詞は、原因の意志に近い。書き言葉に用いられるやや翻訳的な表現 である。
風が戸を開けた。
[受身的動作の主体]
自然現象の主体とは、発生したり展開したり終結したりする自然現象の主体 である。
あかあかと火が燃える。
[変化の主体]
次の例は、形状や状況が変化する主体である。
洪水で橋が壊れる。
部屋が散らかる。
姿勢が変化することを表す主体もある。
生徒がみんな立つ
佐藤さんがうつむく。
変化の主体の中には、述語で表される動きによって、存在する位置が変化す るものもある。移動動作のガ格名詞がこれである。
私は、田中がここに来ることを知らなかった。
ここではみんなの邪魔になるから、我々が隣の部屋に移ろう。
形状や状況の変化は、無意志的な動きである。一方、姿勢の変化や位置変化 は、意志的な動きであることが多い。
[心的活動の主体]
思考活動を表す動詞には「思う」「考える」「忘れる」「知る」など、感情 の動きを表す動詞には「喜ぶ」「悲しむ」「愛する」などがある。私的活動の主 体は、基本的に有情物である。
鈴木が財布を忘れたので、お金を貸してやった。
田中が弟の成功を心から喜んでいるのは間違いない。
状態の主体
状態は主に形容詞・名詞述語によって表されるが、一部の動詞も状態を表す。
状態の主体には、存在の主体、能力の主体、心的状態の主体、性質の主体などが ある。なお、状態の主体は、存在動詞「いる」の主体を除いて、無意志的な主体 である。
[存在の主体]
「ある」「いる」「存在する」「ない」のような述語が存在の主体をとる。
典型的には物や人である。
このホテルには有名なレストランがある。
この辺りには郵便局がなくて、とても不便だ。
出来事や抽象的な事態の存在を表す場合もある。
今度の日曜日に運動会がある。
現在の日本社会には多くの矛盾が存在する。
「多い」「尐ない」といった量を表す述語の主体も、存在の主体に近い。
日曜日の公園には親子連れが多かった。
この街には緑が尐ない。
[能力の主体]
能力を表す「できる」や可能動詞、「見える」「聞こえる」「わかる」「理 解する」などの知覚状態を表す動詞が能力の主体をとる。
この子が専門書が読めるはずがない。 (1)
私ができることが、君ができないわけがない。
最後例の学生が黒板の字が見えないようなので、教室を変更した。(2)
これらの述語では、能力の及ぶ対象((1)の「難しい本」、(2)の「黒 板の字」)も「が」で表される。
能力の主体は、「に」によって表すこともできる。
[心的状態の主体]
「好きだ」「欲しい」「心配だ」などの感情形容詞が心的状態の主体をとる。
君がコーヒーが好きなことはよく知っている。 (3)
私がにんじんが嫌いなのは臭いのせいだ。 (4)
これらの述語では、心的状態の対象((3)の「コーヒー」、(4)の「に んじん」)も「が」で表される。
まとめ
根拠、時などがある。本章では、宮島達夫(2003)の『現代日本語文法②』の第
3 部を参考し、述語が表す用法によって、例の格助詞を分析する。格助詞の意味 により、格助詞と詳しい用法が区別できる。格助詞の意味ごとのリストは以下の とおりである。
表 2 – 格の意味と格助詞 格の
助詞 用法の詳細 例文
主体 が 動きの主体
子供たちが公園で遊ぶ。(意志動作の主体)
弟が女の子から花束をもらった。(受身的動作の主体)
洪水で橋が壊れる。(変化の主体)
田中が弟の成功を心から喜んだ。(心的活動 の主体)
状態の主体
このホテルには有名なレストラン がある。
(存在の主体)
この子が専門書が読めるはずがない。(能力 の主体)
君が悲しい時は、私も悲しい。(心的状態の 主体)
今朝は空がとてもきれいだ。(性質の主体)
このマークが進入禁止を表す。(関係の主 体)
同定関係の主体 あの眼鏡をかけた人が田中さんだ。
に 状態の主体
私には大きな夢がある。(所有の主体)
この子に専門書が読めるはずがない。(能力 の主体)
私には弟の成功が心から嬉しい。(心的状態 の主体)
で 動きの主体 私と佐藤でその問題に取り組んだ。
から 動きの主体 私から集合時間を連絡しておきます。
変化の対象
ハンマーで氷を砕いた。(形状変化の対象)
花を鉢から花壇に移した。(位置変化の対 象)
植木を囲った。(状況変化の対象)
小説を書いた。(産出の対象)
動作の対象
太鼓をたたく。(働きかけの対象)
市町村合併問題を議論する。(言語活動の対 象)
心的活動の対象 友人との約束をすっかり忘れていた。
心的状態の対象 恩師の死が悲しい。
能力の対象 この子は逆上がりができる。
所有の対象 私には大きな夢がある。
に 動作の対象 親にさからう。
心的活動の対象 先輩にあこがれる。
動作の相手 隣の人に話しかける。
授与の相手 おばあさんが孫に絵本をやる。
受身的動作の相
犯人が警察に捕まった。
基準としての相
体格が大人にまさる。
共同動作の相手 友達と喫茶店でコーヒーを飲んだ。
相互動作の相手 弟とけんかをする。
基準としての相
弟と趣味が違う。
に 存在の場所 机の上に本がある。
出現の場所 あごに髭が生える。
で 動きの場所 庭で犬が吠えている。
に 移動の着点
子どもが学校に行く。(到達点)
糸くずが服につく。(接触点)
変化の結果 信号が青に変わる。
と 変化の結果 氷が溶けて水となる。
へ 移動の方向 船が港へ向かう。
まで 範囲の終点 子どもが学校まで自転車で通う。
移動の起点 子どもたちが教室から出てきた。
方向の起点 ここから富士山がよく見える。
範囲の始点 本を 10 ページから読み始める。
変化前の状態 信号が青から黄に変わる。
移動の起点 遠方より友来たる。
方向の起点 これは東京タワーより撮影した富士山の写真
範囲の始点 本を 10 ページより読みはじめる。
変化前の状態 書類の提出期限が2月末より3月末に変更さ
を 移動の起点 昨日は8時に家を出た。
を 空間的な経過域 川を泳いで渡った。
時間的な経過域 お正月を実家で過ごした。
から 空間的な経過域 虫は窓から出ていった。
方法 遠近法で図を描く。
材料 千代紙で鶴を折る。
構成要素 委員会は5人のメンバーで構成される。
内容物 会場が人でいっぱいになる。
付着物 服がホコリで汚れる。
から 構成要素 国会は衆議院と参議院から成り立っている。
に 内容物 新入生の顔は希望にあふれている。
付着物 全身が泤にまみれる。
変化の原因 強い風で看板が倒れた。
行動の理由 急用で家へ帰った。
感情・感覚の起因 友人とのことで悩んでいる。
判断の根拠 隣の部屋の人物が誰なのか、甲高い声でわか
に 感情・感覚の起因 職員の横柄な態度に腹を立てる。
継続的状態の起因 潮風に帄が揺れていた。
出来事の原因 たばこの火の不始末から火事になった。
判断の根拠 隣の部屋の人物が誰なのか、甲高い声からわ
に 時点 1時に事務所に来てください。(時名詞)
午前中に用事を済ませた。(期間名詞)
限界 で 範囲の上限 先着30名で締め切る。
で 評価の成り立つ
富士山が日本で一番高い山だ。
に 認識の成り立つ
私には、山本さんの意見は刺激的だった。
目的 で 動作の目的 観光で京都を訪れた。
に 移動の目的 母が買い物に行く。
様態 で 動きの様態 裸足で歩く。
役割 に 名目 お礼に手紙を書く。
割合 に 割合の基準 1週間に1日は酒を飲まない日を作りましょ
内容 と あの方は恩師と呼べる。
ベトナム人日本語学習者の格助詞の使用に関する考察と日本語の教育に おける教授法の提案
調査の概要
まず、ハノイ国家大学・外国語大学・付属外国語英才高等学校の日本語を専 攻している学習者がどうやって格助詞を使用するか調べる。それから、格助詞の 使用実態から誤用を見つける。どんな用法によく誤用が出ているか調べるのは調 査の目的である。
3.1.2 調査内容の範囲
本調査は、日本語の格助詞の使用実態を調べるが、初級レベルの場面により、
格助詞の範囲で限る。また、本調査で用いる格助詞は、ハノイ国家大学・外国語 大学・付属外国語英才高等学校の日本語授業の教科書と教材に出現する述語と付 加する格助詞を参照にして抽出したものである。本調査で用いた格助詞は「を・
に・へ・と・が・まで・で・から」である。
また、本調査で使用した格助詞は学習者が勉強した格助詞の意味以内制限す る。教科書や教材に出現した格助詞の意味は以下のとおりである。
表3.1 教科書に出現した格の意味
詞 用法の詳細 例文
動きの主体
雤が降っています。(自然現象の主体)
火事で家が焼けました。(変化の主体)
誕生日に父が時計をくれました。(受身的 動作の主体)
状態の主体
部屋に猫がいます。(存在の主体)
像は鼻が長いです。(性質の主体)
す。(心的状態の主体)
り 起点の主体 〜さんより (手紙を書く時)
変化の対象 私 は 部 屋 で手 紙 を 書 きま す 。 (産 出 の 対
動作の対象
太鼓をたたく。(働きかけの対象)
市町村合併問題を議論する。(言語活動の 対象)
心的活動の対象 友人との約束をすっかり忘れていた。
心的状態の対象 恩師の死が悲しい。
能力の対象 私は日本語が話せます。
所有の対象 私には大きな夢がある。
に 動作の対象 親にさからう。
心的活動の対象 先輩にあこがれる。
動作の相手 隣の人に話しかける。
授与の相手 おばあさんが孫に絵本をやる。
受身的動作の相手 犯人が警察に捕まった。
基準としての相手 体格が大人にまさる。
共同動作の相手 友達と喫茶店でコーヒーを飲んだ。
相互動作の相手 弟とけんかをする。
基準としての相手 弟と趣味が違う。
に 存在の場所 教室に本がある。
出現の場所 あごに髭が生える。
で 動きの場所 先週、デパートでかばんを買いました。
に 移動の着点 子どもが学校に行く。(到達点)
糸くずが服につく。(接触点)
変化の結果 信号が青に変わる。
と 変化の結果 氷が溶けて水となる。
へ 移動の方向 佐藤さんはホーチミン市へ行きます。
で 範囲の終点 毎日10時まで勉強します。
移動の起点 一匹のくまが穴から出てきた。
方向の起点 私の部屋から山が見えます。
範囲の始点 本を10ページから読み始める。
変化前の状態 信号が青から黄に変わる。
を 移動の起点 電気を消さずに、家を出ました。
を 空間的な経過域 川を泳いで渡った。
時間的な経過域 お正月を実家で過ごした。
ら 空間的な経過域 虫は窓から出ていった。
道具 日本人は箸でご飯を食べます。
方法 日本語でレポートを書きます。
材料 この机は木で作られました。
構成要素 委員会は5人のメンバーで構成される。
内容物 会場が人でいっぱいになる。
付着物 服がホコリで汚れる。
ら 構成要素 国 会 は 衆 議院 と 参 議院 か ら 成 り立 っ て い
に 内容物 新入生の顔は希望にあふれている。
付着物 全身が泤にまみれる。
変化の原因 大雤で川があふれました。
行動の理由 急用で家へ帰った。
感情・感覚の起因 友人とのことで悩んでいる。
判断の根拠 隣の部屋の人物が誰なのか、甲高い声でわ
に 感情・感覚の起因 職員の横柄な態度に腹を立てる。
継続的状態の起因 潮風に帄が揺れていた。
に 時点 毎晩、11時に寝ます。(時名詞)
限界 で 範囲の上限 先着30名で締め切る。
領域 で 評価の成り立つ領域 会社でミンさんが一番若いです。
目的 で 動作の目的 観光で京都を訪れた。
に 移動の目的 スーパーへ食べ物を買いに行きます。
様態 で 動きの様態 裸足で歩く。
役割 に 名目 お礼に手紙を書く。
割合 に 割合の基準 ミさんは1週間に3回日本語を勉強する。
内容 と あの方は恩師と呼べる。
調査対象者はハノイ国家大学・外国語大学・付属外国語英才高等学校・日本 語専攻している 2年生 46名(16歳)・3年生 25名(17歳)で、合計 71名である。
まだたくさん格助詞の用法を勉強しない1年生は含まれていない。全員の学習者 はベトナム国内で日本語を学習している。また、その学習者は高校に入った時に、
日本語を勉強し始める。詳細な情報は以下の表3.2で表す。
表3.2 調査の対象者の概要
日本語教育機関 ハノイ国家大学・外国語大学・付属外国語英才高等学校
・日本語専攻
年生 2年生 3年生
合計:71名 日本語レベル
(相当) N4レベル(初級) N3レベル(初・中級)
調査場所 ハノイ国家大学・外国語大学・付属外国語英才高等学校 調査期間 2017年11月
授業用の教科書・
外国語英才高等学校向けの日本
語教科書11 みんなの日本語(初級 II)
外国語英才高等学校向けの 日本語教科書12
テストは時間20分以内制限し、調査はテストの形で、2問題 がある。
その2問題はそれぞれ括弧に適当な格助詞を記入する問題の
15問および、A・B・C選択形式の10問に答えさせた。
他人と相談しないように注意する。
3.1.4 調査の方法
本稿で述べる調査は小テストであり、その内容には2問題がある。
問題1は括弧に適当な助詞を記入する形式である。具体的な場面にある文に 最も適切な助詞を記入させる。学習者は自由に助詞を記入し、制限されない。こ の問題の目的は学習者がどのように助詞を使うかという実態を調べることである。
つまり、助詞の各用法の区別が正しく分かっているか考察することである。
問題2は、A・B・C 選択肢形式であり、よく間違えやすい格助詞を入れて作 成したものである。具体的な場面にある文や文脈に最も適切な格助詞を選ばせる。
この問題の目的は間違えやすい格助詞を区別できるかどうか考察することである。
詳細な情報は付録「調査のアンケート」をご参考まで。
調査結果と誤用の分析
本章では、これらのさまざまな誤用例を一つずつ分析し、それぞれの要因も 探してみる。本稿では筆者が井島正博(2006)の『日本語学論集』第2号を参考 にし、小テストという形式で、ハノイ国家大学・外国語大学・付属外国語英才高 等学校において調査を行った。 本調査の対象者は高校生で、あまり助詞の用法・
意味を注意せずに、助詞を使用する。従って、述語の表現と意味に注目し、本調 査を作成した。調査結果で見られた格助詞の誤用例を取り上げ、分析を試みた。
これにより、学習者が格助詞を習得する上でどの過程、要素に困難を感じている かが明らかになり、また、それを問避する指導対策も考えてみる。
以上述べたように、本稿では、ベトナム人学習者の格助詞に関する使用およ びよく見られる誤用は調査で考察する。調査は小テストという形式で、2 問題に 分けられ、他の助詞と間違えやすい用法も含み、それらを区別できるかを考察し てみる。
調査の結果を考察した上で、述語により、下記のように①~⑦の七つのグル ープに分類した。調査結果の分析もその順とおりに述べる。
1 自他動詞の述語と格助詞
2 受身表現の述語と格助詞
3 使役表現の述語と格助詞
4 授受動詞の述語と格助詞
5 希望・可能表現の述語と格助詞
6 存在動詞の述語と格助詞
7 様々な他の意味を表す述語と格助詞
3.2.1 自他動詞の述語と格助詞
動詞文では、自動詞文と他動詞文が外国人に対し間違えやすく、区別が難し い。自・他動詞がある文で、格助詞をどのように使うか疑問がある。典型的な他 動詞は、主体を「が」、主体の働きかけが及ぶ対象を「を」で表す。他動詞以外の 動詞を自動詞という。典型的な自動詞は「が」文型をとる。以下は調査に出現し た自・他動詞の述語がある例文の表4である。
表 4‐他動詞・自動詞の述語の例文
問題 順番 原文
1 1 その手帳( )落とした人が田中さんです。
2 1 そのシャツ( )汚れています。
問題1は以上述べたように、括弧に適当な助詞を記入する形式である。「落と
るから、以下の表4.1はその問の調査結果である。
表 4.1 – 問題1の例文1の調査結果
答え を が 他の答え 合計 正確率 不正確率
回答は「を」で、「が」と間違った。他の答えがない。誤用の原因は自動詞と 他動詞が区別できないからであろう。2年生の学習者は調査の時、自動詞と他動 詞を勉強したばかりなので、格助詞を間違えたのは分かりやすい。逆に、3年生 の学習者は自動詞と他動詞をよく練習したから、正確率が高い。
ところで、問題2の例文1には「汚れる」という自動詞がある。この問題に は、3つの選択肢があり、「は」「が」と「を」である。調査結果は以下の表 4.2 である。
表 4.2 – 問題2の例文1の調査結果
回答 A(は) B(が) C(を) 合計 正確率 不正確率
述語が自動詞の文に、格助詞は「が」で、普通である。主語は「シャツ」で あれば、回答は B(が)になった。しかし、この例文の主語は「そのシャツ」で あり、具体的に指定した物であるから、文の助詞は「は」になった。それで、こ の問題の回答は A(は)である。従って、述語だけでなく、主語も注意しなけれ ばならない。この問題は間違えやすいので、正確率が高くない。特に、2年生の 学習者の正確率に比較し、3年生の学習者の正確率はもっと低い。2年生の学習 者がその文の助詞を勉強したばかりで、注意されたので、まだ覚える可能性があ る。
3.2.2 受身表現の述語と格助詞
日本語の文法における受身形を表す述語の文では、格助詞「を」「に」が使用 される。どのように格助詞を使用するか調べるべきである。以下は調査に出現し た受身表現の述語がある例文の表 5 である。
表 5 – 受身表現の述語の例文
問題 順番 原文
1 2 昨日、バスの中で、隣の人( )足( )踏まれました。
3 雤( )降られて、ぬれてしまいました。
2 3 子供の時、父( )よく叱 しか られました。
行為を、その行為を受けた側(N1)の立場から表現する文型である。動作主(N 2)は格助詞「に」をつけて示される。問題2の例文3には、動作主または「叱 った人」は「父」で、「父」は「に」をつける。そのため、問題2の例文3の選択 肢の中では、回答が C(に)である。
この問の調査結果は以下の表 5.1 である。
表 5.1 – 問題2の例文3の調査結果
回答 A(は) B(が) C(に) 合計 正確率 不正確率
本調査の例文には、N1(私)が表さないから、N1と N2が確定できないの ではないだろうか。問題の例文は以下の例であれば、誤用の可能性がない。
例:子供の時、私は父( )よく叱られました。
更に、受身文では、「N1は N2に N3を受身動詞」という文型もある。この 文型は N2が N1の所有物(N3)などに対してある行為をし、その行為を N1 が多くの場合迷惑に感じていることを表す。問題1の例文2は、迷惑をかける人 が「隣の人」であり、N1の所有物が「足」であるから、それぞれの回答は「に」
と「を」になった。「迷惑を表す受身」には他動詞の受身に限らないで、自動詞の 受身もあるから、問題1の例文3の回答は「に」である。以下の表 5.2 は問題1 にある受身表現する述語の例文の調査結果である。
表 5.2 – 問題1の例文2・3の調査結果
答え 回答 を が に は の 合計 正確率 不正確率 2
日本語教育における格助詞の教示現状と教授法の提案
以上のように述べた上に、格助詞の誤用分析には様々な原因がある。教科書 と格助詞の教示の現状はどのようにするか。学習者に教える際に、どのようにす れば良いであろうか。
3.3.1 格助詞の教示と教科書の現状
まず始めに、付属外国語英才高等学校で勉強している教科書では、格助詞が どのように扱われているかを分析した。分析結果は次のとおりである。
* 教科書では、文型積み上げ方式を取っているが、文型を提示する場合に助詞に 焦点が当たるようになっている課は尐ない。
* 助詞の種類(格助詞・終助詞・副助詞など)の違いが分かるようにはなってい ない。
* 直接法の場合は文法説明が教科書では原則としてなされていないが、媒介語による 文法説明がついている場合も個々の助詞の意味や用法の説明に終始している。
* 格助詞間でのレベルの違いが明確には扱われていない。扱っている場合も基準がはっきりしていない。
* 名称については英文説明で婆“particle”として説明されてはいるが、日本語 の名称はほとんど出て来ない。
* 助詞についての全体像が分かるような「まとめ」がほとんど見られない。
さらに、日本語の教育は、特に文法を教える際に、教師は学習者に助詞の使 い方を注意せずに、よく文型の意味だけ説明する。文法を練習するとき、言葉の 形を変える問 や翻訳問や文を完成する問などをよく出す。最近、多くの試験は多 肢選択式問題を利用し、作文又は文を書く問題をあまり実行しない。その原因で、
学習者は助詞の問題を練習することが尐なく、文や作文を書くとき、助詞をよく 間違える。特に、格助詞である。外国語英才高等学校の学生もその問題にあった。
どのようにすれば良いであろうか。
3.3.2 格助詞の研究と日本語教育
日本語研究では動詞を単独ではなく、格助詞によって結ばれた名詞と共に、
連語として捕らえる試みがなされている。また、動詞の表す動きが実現するため にどうしても必要な成分と、余剰的な状況成分が区別される。
上記のような格助詞についての考え方から、以下の点が日本語教育に採り入 れられる。
① 動詞の意味を考えるとき、単独でなく名詞句と共に考える。
② 動詞と名詞句の結び付きには固有のもの(動詞の動きを実現させるために必 要)と副次的なもの(余剰的)がある。それらを分けて教えることにより、使用 上の混乱をさけることができる。
③ 動詞と固有の格がとる組み合わせには幾つかの類型がある。これらの類型を 学習者に示すことで、格助詞に対する使用上の基準を与えることができる。その 際寺村、森山の分類を基準作りに忚用できる。
まとめ
格助詞は日本語の文法においては、非常に重要な品詞だと考えられる。ベト ナム語と違い、格助詞がないから、誤用が起こりやすい。学習者はできる限り、
その誤用が生じないように、学習の際には、いろいろ注意しなければならない。
本論文では、外国語英才高等学校の学習者は次の七つの述語と格助詞の問題を間 違いやすい。
1 自他動詞の述語と格助詞
2 受身表現の述語と格助詞
3 使役表現の述語と格助詞
4 授受動詞の述語と格助詞
5 希望・可能表現の述語と格助詞
6 存在動詞の述語と格助詞
7 様々な他の意味を表す述語と格助詞 以上述べたように、第3章に記述した誤用の回避には、その提案として、9 つの指導法を挙げてみた。
1 意味ごとに教える指導法
2 格助詞に焦点を当て、明確に位置付けるため「助詞」という名称をはっきり 出す。
3 動詞固有の格助詞は動詞と一体化したものとして扱う。
4 固有の格助詞と副次的格助詞を同レベルで扱わず、違うものとして教える。
5 文型・新出動詞の提示の際、常に動詞の後に、動詞のとる格助詞の型番号を
6 一つの課としてまとめて採り上げない動詞については、出てくる都度、格助 詞と共に新出語として出し、型番号を添える。
7 「まとめ」として、学習者用の動詞と格助詞の組み合わせの一覧表を付し、
格助詞の全体像を把握できるようにし、使用の基準とする。
8 母語で説明する
9 格助詞の問や練習を出す
やはり、指導方法は人や学習者のレベルにより違うが、ベトナム人学習者の場合は、特にハノイ国家大学・外国語大学・外国語英才高等学校は現在使っている教科書における練習問題のほかに、以上提案としてあげてみた練習形式もある程度役に立つと考えられるのではないだろうか。
以上、日本語における助詞と格助詞の概要について紹介し、調査を通し、ベ トナム人学習者が通常出会う格助詞の使用に関する問題点やその要因を分析した 上、誤用の回避に役立つ指導方法の提案を挙げた。本調査はハノイ国家大学・外 国語大学・付属外国語英才高等学校の 2 年生および 3 年生を対象にし、行った。
その目的はベトナム人日本語学習者が格助詞を使用する際、どんな誤用が生じる か、そして、その原因は何か調べることである。その調査結果に基づいき、格助 詞の指導に適切な指導法を提案する。つまり、本論文の構造は次のようになされ た。
第一章では、日本語の助詞というのはどういうものかという概念を提起した。
それから、助詞の分類について述べた。日本語における助詞には、様々な助詞の 種類があるが、格助詞を注目した。格助詞の概念と性質を述べた。また、文法格 と意味格を区別した。ところで、格助詞には、複合格助詞もあるが、本論文では 複合格助詞の概要だけ述べ、具体的に研究しない。
☆ 1 節では、格助詞の先行研究を再考した。その研究から、様々な格助詞 の用法が分かった。